日本映画レビュー──2024年
製作:日活、東京テアトル、USシネマ、読売テレビ放送、ムービーウォーカー
公開:2024年9月27日
監督:黒沢清 脚本:黒沢清 撮影:佐々木靖之 美術:安宅紀史 音楽:渡邊琢磨
キネマ旬報:4位
金に支配された現代を舞台にしたファウストとメフィストフェレスの物語
転売ヤーの主人公(菅田将暉)が様々な人間から恨みを買った結果、彼らと銃撃戦となり、最後は恋人(古川琴音)にも裏切られる。この主人公を支えるのがバイト青年(奥平大兼)で、一人の味方もいなくなった主人公と共に荒野に向かうラストシーンになる。
前半の転売ヤーとしてのエピソードは現実的な世界の積み重ねなのだが、主人公が追われる段からは不条理な殺戮シーンとなり非現実化する。
これをファウストの物語と捉えればわかりやすく、主人公がファウスト、バイト青年がメフィストフェレスに置き換えられる。
自己中心的で金以外に価値を見い出せず主人公は次第に敵を作り、そこに協力者として現れるのが悪魔のバイト青年。警戒して一度は追い払うも、憑りついた悪魔は離れず、主人公に邪魔する者をことごとく排除する。
そうして悪魔の手に落ちた主人公に「金を儲けてください。その他の事は僕が引き受けます」と命令。金に支配された世界、地獄の蓋が開いた世界へと出発する。
金に支配された世界は地獄だという、現在の世の中、風潮を風刺した作品で、久々に黒沢清の快作となっている。
悪魔に武器を手渡す使い魔に松重豊。 (評価:2.5)

公開:2024年9月27日
監督:黒沢清 脚本:黒沢清 撮影:佐々木靖之 美術:安宅紀史 音楽:渡邊琢磨
キネマ旬報:4位
転売ヤーの主人公(菅田将暉)が様々な人間から恨みを買った結果、彼らと銃撃戦となり、最後は恋人(古川琴音)にも裏切られる。この主人公を支えるのがバイト青年(奥平大兼)で、一人の味方もいなくなった主人公と共に荒野に向かうラストシーンになる。
前半の転売ヤーとしてのエピソードは現実的な世界の積み重ねなのだが、主人公が追われる段からは不条理な殺戮シーンとなり非現実化する。
これをファウストの物語と捉えればわかりやすく、主人公がファウスト、バイト青年がメフィストフェレスに置き換えられる。
自己中心的で金以外に価値を見い出せず主人公は次第に敵を作り、そこに協力者として現れるのが悪魔のバイト青年。警戒して一度は追い払うも、憑りついた悪魔は離れず、主人公に邪魔する者をことごとく排除する。
そうして悪魔の手に落ちた主人公に「金を儲けてください。その他の事は僕が引き受けます」と命令。金に支配された世界、地獄の蓋が開いた世界へと出発する。
金に支配された世界は地獄だという、現在の世の中、風潮を風刺した作品で、久々に黒沢清の快作となっている。
悪魔に武器を手渡す使い魔に松重豊。 (評価:2.5)

製作:ワンダーラボラトリー、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、ギャガ、JR西日本コミュニケーションズ=アイ・ピー・アイ、アミューズ、河北新報社、東日本放送、シネマとうほく
公開:2024年9月20日
監督:呉美保 脚本:港岳彦 撮影:田中創 美術:井上心平 音楽:田中拓人
キネマ旬報:6位
聾唖者の家庭をポジティブにありのままに描く佳作
五十嵐大の自伝を基にしたノンフィクション『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』が原作。
両親共に聾唖者の大(吉沢亮)は、周囲の様々な差別、劣等感、困難の中で大人となり、父の勧めで塩釜から上京。フリーターからライターの定職に就き、東京の手話サークルとも交流。父の病気で8年ぶりに帰省する。
コーダに生まれたことを恨んでいた大は、そこで初めて出生の経緯と両親の愛を知り、東京へと帰っていく、というお話。
特筆すべきは母親役の聾者でもある忍足亜希子の演技。聾者の母親の子への愛、夫への愛、周囲の無理解の中でも揺るがない信念を力強く演じている。
父親役の今井彰人も聾者で、聾唖者の家庭をポジティブにありのままに描いていて、その具体的な生活様式を知ることができ、健常者が持つ偏見、仮想の壁を取り除いてくれる。
呉美保らしい繊細でリアリティのある作品で、いつものよう観客を落ち込ませず、前向きにさせてくれる心温まる佳作。 (評価:2.5)

公開:2024年9月20日
監督:呉美保 脚本:港岳彦 撮影:田中創 美術:井上心平 音楽:田中拓人
キネマ旬報:6位
五十嵐大の自伝を基にしたノンフィクション『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』が原作。
両親共に聾唖者の大(吉沢亮)は、周囲の様々な差別、劣等感、困難の中で大人となり、父の勧めで塩釜から上京。フリーターからライターの定職に就き、東京の手話サークルとも交流。父の病気で8年ぶりに帰省する。
コーダに生まれたことを恨んでいた大は、そこで初めて出生の経緯と両親の愛を知り、東京へと帰っていく、というお話。
特筆すべきは母親役の聾者でもある忍足亜希子の演技。聾者の母親の子への愛、夫への愛、周囲の無理解の中でも揺るがない信念を力強く演じている。
父親役の今井彰人も聾者で、聾唖者の家庭をポジティブにありのままに描いていて、その具体的な生活様式を知ることができ、健常者が持つ偏見、仮想の壁を取り除いてくれる。
呉美保らしい繊細でリアリティのある作品で、いつものよう観客を落ち込ませず、前向きにさせてくれる心温まる佳作。 (評価:2.5)

製作:エイベックス・ピクチャーズ、集英社、スタジオドリアン、Amazon MGM Studios
公開:2024年6月28日
監督:押山清高 製作:勝股英夫、瓶子吉久、押山清高 脚本:押山清高 作画監督:押山清高 美術:さめしまきよし 音楽:haruka nakamura
キネマ旬報:7位
定型化した日本のアニメーションに新風を期待させる
藤本タツキの同名漫画が原作のアニメーション。
小学生の時から漫画家を目指していた少女と、絵が上手で後にアシスタントとなる不登校の同級生との友情物語で、京都アニメーション放火事件を連想させる男によって同級生が殺されるまでを描く。
主人公の少女が漫画家になる過程が不自然なのと、唯我独尊の性格に問題があるのを別にすれば、親友の死によって初めて他者に思いを巡らすという反省のドラマにもなっている。ただ、それが観客に伝わるかどうかは別。
アニメーションの特長を生かした演出で、各シーンのカメラワーク、カット割りのテンポと転換などが見どころ。主人公の声優、河合優実の自然な演技も好感が持てる。
親友の死によって、主人公は二人の出会いからのもう一つのストーリーifを想像。現実に戻った主人公が漫画を描き始める後ろ姿という、漫画家らしい情感のあるラストシーンになっている。
アニメ制作者とファンの予定調和な作品が多い中で、定型化した日本のアニメーションに新風を期待させる。 (評価:2.5)

公開:2024年6月28日
監督:押山清高 製作:勝股英夫、瓶子吉久、押山清高 脚本:押山清高 作画監督:押山清高 美術:さめしまきよし 音楽:haruka nakamura
キネマ旬報:7位
藤本タツキの同名漫画が原作のアニメーション。
小学生の時から漫画家を目指していた少女と、絵が上手で後にアシスタントとなる不登校の同級生との友情物語で、京都アニメーション放火事件を連想させる男によって同級生が殺されるまでを描く。
主人公の少女が漫画家になる過程が不自然なのと、唯我独尊の性格に問題があるのを別にすれば、親友の死によって初めて他者に思いを巡らすという反省のドラマにもなっている。ただ、それが観客に伝わるかどうかは別。
アニメーションの特長を生かした演出で、各シーンのカメラワーク、カット割りのテンポと転換などが見どころ。主人公の声優、河合優実の自然な演技も好感が持てる。
親友の死によって、主人公は二人の出会いからのもう一つのストーリーifを想像。現実に戻った主人公が漫画を描き始める後ろ姿という、漫画家らしい情感のあるラストシーンになっている。
アニメ制作者とファンの予定調和な作品が多い中で、定型化した日本のアニメーションに新風を期待させる。 (評価:2.5)

製作:TBSスパークル、TBSテレビ、東宝、MBS、CBCテレビ、RKB毎日放送、HBC北海道放送
公開:2024年8月23日
監督:塚原あゆ子 脚本:野木亜紀子 撮影:関毅 美術:YANG仁榮 音楽:得田真裕
キネマ旬報:9位
TVドラマを知らなくても楽しめる良く出来たサスペンス劇
TBSのTVドラマ『アンナチュラル』及び『MIU404』と世界観を共有するシェアード・ユニバース作品、と説明にあるが、どちらも見たことがないので、前提なしの単独の映画作品としての評になる。監督、脚本共に、両TVドラマのメインディレクター、脚本家が起用されている。
Amazonをモデルとするアメリカ資本の通販会社のブラックフライデー前後の4日間を描くもので、物流センターの元マネージャーの自殺に端を発し、セール商品12個に爆弾が仕掛けられ、それが次々に爆発。爆弾荷物の回収と事件の解決を図るという物語。
物語の中心となるのは通販会社のセンター長(満島ひかり)とマネージャー(岡田将生)で、ブラックフライデーの流通が止まることで莫大な損害を出すことから、警察に非協力的なセンター長、職業倫理で葛藤するマネージャー、これに自殺者を出した時のセンター長でアメリカ本社幹部(ディーン・フジオカ)、事件に翻弄される運送会社の責任者(阿部サダヲ)、配達員(火野正平、宇野祥平)、12個目の爆弾荷物配達先の家族(安藤玉恵ほか)が絡む。
これに『アンナチュラル』『MIU404』のキャストが出てくるため俳優陣は豪華だが、ストーリー上は脇役に回っているため、オリジナル・キャストをメインとしたサスペンス劇としては良く出来ている。
テーマとしては自殺の原因となったAmazonを代表とするネット通販会社の効率・売上至上主義の非人間性が描かれるが、あくまで事件の背景でしかなく、問題を掘り下げるでも解決策を提示するでもなく、それを受け入れる消費者の利便性との矛盾を問題にするわけでもなく、満島ひかりがアメリカ本社から自殺の内部調査のためにセンターに送られたというのもとってつけた設定で、エンタテイメントとして楽しむだけの作品になっている。 (評価:2.5)

公開:2024年8月23日
監督:塚原あゆ子 脚本:野木亜紀子 撮影:関毅 美術:YANG仁榮 音楽:得田真裕
キネマ旬報:9位
TBSのTVドラマ『アンナチュラル』及び『MIU404』と世界観を共有するシェアード・ユニバース作品、と説明にあるが、どちらも見たことがないので、前提なしの単独の映画作品としての評になる。監督、脚本共に、両TVドラマのメインディレクター、脚本家が起用されている。
Amazonをモデルとするアメリカ資本の通販会社のブラックフライデー前後の4日間を描くもので、物流センターの元マネージャーの自殺に端を発し、セール商品12個に爆弾が仕掛けられ、それが次々に爆発。爆弾荷物の回収と事件の解決を図るという物語。
物語の中心となるのは通販会社のセンター長(満島ひかり)とマネージャー(岡田将生)で、ブラックフライデーの流通が止まることで莫大な損害を出すことから、警察に非協力的なセンター長、職業倫理で葛藤するマネージャー、これに自殺者を出した時のセンター長でアメリカ本社幹部(ディーン・フジオカ)、事件に翻弄される運送会社の責任者(阿部サダヲ)、配達員(火野正平、宇野祥平)、12個目の爆弾荷物配達先の家族(安藤玉恵ほか)が絡む。
これに『アンナチュラル』『MIU404』のキャストが出てくるため俳優陣は豪華だが、ストーリー上は脇役に回っているため、オリジナル・キャストをメインとしたサスペンス劇としては良く出来ている。
テーマとしては自殺の原因となったAmazonを代表とするネット通販会社の効率・売上至上主義の非人間性が描かれるが、あくまで事件の背景でしかなく、問題を掘り下げるでも解決策を提示するでもなく、それを受け入れる消費者の利便性との矛盾を問題にするわけでもなく、満島ひかりがアメリカ本社から自殺の内部調査のためにセンターに送られたというのもとってつけた設定で、エンタテイメントとして楽しむだけの作品になっている。 (評価:2.5)

サンセット・サンライズ
公開:2025年1月17日
監督:岸善幸 脚本:宮藤官九郎 撮影:今村圭佑 美術:露木恵美子 音楽:網守将平
楡周平の同名小説が原作。
東京の有名企業に勤めるサラリーマンが、新型コロナ禍でテレワークとなり、趣味の海釣りを楽しむために東日本大震災で被災した三陸に移住するというもので、深刻な社会状況下でありながら軽いコメディで受け流して前向きに生きていくという、宮藤官九郎脚本らしいヒューマンドラマとなっている。
プロローグの釣り船で、ジャケットに付いたミミズがアニエスベーのロゴと間違えるシーンが宮藤官九郎らしい引きで、以下、深刻な話を深刻にならないように見せる。
中心テーマは過疎で、役場で空き家活用プロジェクトを担当する女性職員・百香(井上真央)が、ネットで自宅を貸しに出したところ、東京の有名企業に勤める西尾(菅田将暉)がテレワークで入居することになる。
百香は震災で夫と子供を亡くし、義父・章男(中村雅俊)と同居。自宅は空き家となっている。
コロナ騒動で地方では東京者は病原菌と見做され、西尾は2週間の自主隔離を百香に求められるが、それを無視して趣味の釣りにいそしみ、町の若者たちと交遊。
以下、百香と余所者の西尾との屈折した恋愛物語が展開され、役場の同僚・仁美(池脇千鶴)の後押しで結婚しそうになるが、百香は失った家族を忘れられず西尾は東京の生活に戻る。
現実には過去に縛られてハッピーエンドなんかない、それぞれに与えられた今の人生を生きるしかない、というほろ苦い結末かと思いきや、続きがあって、西尾は再び町に行き、章男の養子となり、兄嫁の仁美とともにそれぞれに納得のいく同居生活を送ることになる。
空き家活用プロジェクトがこんな簡単に成立するか?という問題は差し置いても、よくできたシナリオで、心温まるファンタジーとなっている。
飲み屋のマスター・竹原ピストル、隣家の老婆・白川和子の演技もよく、とりわけ池脇千鶴の激変した容姿にも驚く。
三陸の海の幸・山の幸を使った料理が次々と登場し、グルメ番組と見間違うような美味しい映画にもなっている。 (評価:2.5)

製作:ハピネットファントム・スタジオ、カルチュア・エンタテインメント、鈍牛倶楽部、グラスゴー15
公開:2024年9月6日
監督:山中瑶子 製作:小西啓介、崔相基、前信介、國實瑞惠 脚本:山中瑶子 撮影:米倉伸 美術:小林蘭 音楽:渡邊琢磨
キネマ旬報:2位
退屈な物語の見どころはカメラワークと編集、河合優実の演技
観終わって制作意図がよくわからなかったので公式サイトを覗いたら、生き甲斐も自己肯定感もなく将来に希望も持てない女の子の悶々とした毎日を描く物語らしい。
もっとも、世の中も人も舐めてテキトーに生きている自分勝手な女の子の意味のない日々を描いているようにしか見えず、同棲相手も新しい恋人もこんな女の相手を良くしているなという感想しか浮かばず、セックス目当てだとしても普通の男なら願い下げ。そもそもこんな女のどこに魅力を感じたのか? というくらいにリアリティがない。
女の方も頭で考えたステレオタイプな落ち零れで現実感に乏しく、台詞や行動にリアリティがない。
仕舞いに女は精神を病んでカウンセリングを受けるが、精神的な悩みと甘えとを混同しているようにしか見えず、本作の主人公からは何も得るものがない。
中国人と日本人との混血ということでアイデンティティの不確かさを持ち出しているが、最後に人と人とは分り合えないのが当たり前という結論に導くには安直な設定。
それでもカメラワークと編集には才気を感じさせるものがあって、退屈な物語を河合優実の演技でそれなりに見せている。
劇中、主人公がスマホで見ているのはナミビア砂漠の水飲み場のライブ映像。 (評価:2)

公開:2024年9月6日
監督:山中瑶子 製作:小西啓介、崔相基、前信介、國實瑞惠 脚本:山中瑶子 撮影:米倉伸 美術:小林蘭 音楽:渡邊琢磨
キネマ旬報:2位
観終わって制作意図がよくわからなかったので公式サイトを覗いたら、生き甲斐も自己肯定感もなく将来に希望も持てない女の子の悶々とした毎日を描く物語らしい。
もっとも、世の中も人も舐めてテキトーに生きている自分勝手な女の子の意味のない日々を描いているようにしか見えず、同棲相手も新しい恋人もこんな女の相手を良くしているなという感想しか浮かばず、セックス目当てだとしても普通の男なら願い下げ。そもそもこんな女のどこに魅力を感じたのか? というくらいにリアリティがない。
女の方も頭で考えたステレオタイプな落ち零れで現実感に乏しく、台詞や行動にリアリティがない。
仕舞いに女は精神を病んでカウンセリングを受けるが、精神的な悩みと甘えとを混同しているようにしか見えず、本作の主人公からは何も得るものがない。
中国人と日本人との混血ということでアイデンティティの不確かさを持ち出しているが、最後に人と人とは分り合えないのが当たり前という結論に導くには安直な設定。
それでもカメラワークと編集には才気を感じさせるものがあって、退屈な物語を河合優実の演技でそれなりに見せている。
劇中、主人公がスマホで見ているのはナミビア砂漠の水飲み場のライブ映像。 (評価:2)

碁盤斬り
公開:2024年5月17日
監督:白石和彌 脚本:加藤正人 撮影:福本淳 美術:今村力、松崎宙人 音楽:阿部海太郎
古典落語『柳田格之進』を基にした時代劇。
主人公(草彅剛)はあらぬ罪で藩を追われ、浪人となった実直で堅物の元藩士。娘(清原果耶)と貧乏長屋に暮らしているが、懇意にしている商家の主人(國村隼)との囲碁から戻ると、50両が失せたと番頭から濡れ衣を着せられる。
切腹して身の潔白を晴らそうとするが、それを知った娘が知己の吉原の置屋に身売りして50両を用意しようとする。女将(小泉今日子)は返済を条件に、年内の娘の水揚げを猶予。年末、50両が商家から出てきて一件落着。
商家の主人と番頭の首を撥ねる代わりに碁盤を一刀両断にするというオチ。
この落語の筋に、妻の自殺の原因となった賭け碁の宿敵(斎藤工)との復讐話が付け足される。
話術で聴かせる落語を映像化すれば話に辻褄が合わず、碁盤を一刀両断などギャグ漫画。賭け碁で身を立てる腕前の宿敵が、初歩的な囲碁の手筋の見落としで負けるというヤッツケのシナリオ。
白石和彌らしい安直なエンタテイメント時代劇に仕上がっている。 (評価:2)

雪の花 ともに在りて
公開:2025年1月24日
監督:小泉堯史 製作:高橋敏弘、渡部秀一 脚本:齋藤雄仁、小泉堯史 撮影:上田正治 美術:酒井賢、大西英文 音楽:加古隆
吉村昭の小説『雪の花』が原作。福井藩に天然痘の種痘を広めた笠原良策の史実を基にしたフィクション。
福井藩の町医者の漢方医・笠原(松坂桃李)が同じ町医者(吉岡秀隆)の紹介で京都の蘭方医(役所広司)に弟子入り。福井藩で種痘を進めるために藩主に上申。清から取り寄せた牛痘苗を失敗を繰り返しながらも福井藩に持ち込み、妨害をはねのけて除痘館を開設。藩医への取立てを断り、町医者として人々を救う決意をするまで。
市井の医者が人々を天然痘から救うために西洋医学を学び藩を動かし、痘苗を手に入れて運び、名誉や金のためではなく人々のために全身全霊を傾けるという、医師の鑑のような感動ヒューマンドラマなのだが、それだけでは飽き足らないと見たのか、時代劇としてのエンタテイメント性を盛り込んだために、何とも中途半端な作品になっている。
笠原が藩医の妨害を撥ね退けるために医者とは思えぬ大立ち回りを演じたり、夫に尽くすおしとやかで見目麗しい良妻(芳根京子)が強請の荒くれ男を捻じ伏せたりと、突然アクション映画に変貌してしまうのがよくわからない。
『赤ひげ』(1965)のようなヒューマンドラマに、『隠し砦の三悪人』(1958)、『姿三四郎』(1943)の要素を盛り込んだような、黒澤明の元助監督らしい作品だが、欲張りすぎたか作品力が足りないと思ったのか、アンバランスになってしまった。
台詞回しや演出も黴が生えたような古臭さで、言ってみれば口語体ではなく文語体。敢えて時代かかった時代劇の復権を狙ったのか、はたまたパロディかとも思ったが、話が進むうちに先祖返りしただけではないかと思い始める。
痘苗を運ぶために吹雪の峠を越えるシーンがストーリー上の山場だが、痘苗を子供を介して分苗するという説明が足りないため、無理して子供に峠越えをさせる意義が伝わってこない。
吹雪の合成シーンや従来型のロケなど、撮影の舞台裏が想像できてしまうのも時代遅れか。 (評価:2)

悪い夏
公開:2025年3月20日
監督:城定秀夫 製作:藤本款、遠藤徹哉、久保田修 脚本:向井康介 撮影:渡邊雅紀 美術:松塚隆史 音楽:遠藤浩二
染井為人の同名小説が原作。
市役所の福祉課職員と生活保護受給者をめぐる物語で、シングルマザー(河合優実)に肉体関係を強要する職員・高野(熊克哉)の犯罪を糾そうとする職員・佐々木(北村匠海)がシングルマザーと恋愛関係に陥ってしまうというもの。事件に絡んで、風俗店長(窪田正孝)と手下の不正受給者(竹原ピストル)がホームレスを集めて生活保護費の詐取を企み、生活保護がテーマのように見せるが、単に道具立てに過ぎないことがわかる。
不正受給者の家を訪ねた佐々木が飲料の提供を規則として断るが、シングルマザーの家では一緒に料理を作って食べるという無茶苦茶なシナリオで、ストーリーとして成立していない。
不正受給に手を貸した佐々木が正当な受給申請者を罵倒して精神錯乱状態に陥り、高野の犯罪を告発しようとした正義派職員(伊藤万理華)も実は高野との不倫が理由だったという破綻した展開で、最後は全員揃っての乱闘というドタバタコメディにして、纏められないストーリーを誤魔化している。
失職した佐々木が清掃夫をしながらシングルマザーと同棲するという示唆で終わるが、みんな生活保護を受けないよう真面目に働きましょうという、とってつけたようなラストシーンも白々しい。
漫画的なキャラクターばかりの中で、ひとり河合優実がリアリティのある演技をしているのが唯一の救いか。 (評価:2)

告白 コンフェッション
公開:2024年5月31日
監督:山下敦弘 脚本:幸修司、高田亮 撮影:木村信也 美術:清水剛 音楽:宅見将典
福本伸行原作、かわぐちかいじ作画の漫画『告白 CONFESSION』が原作。
雪山の山小屋を舞台にしたサイコホラーといえば『シャイニング』(1980)で、この名作をなぞるように、モンスターと化した男が包丁、スコップ、斧を振り回して相手を襲うのだが、追われる方が子供ではなく大の男という点で?となる。
この不自然さを補うように、大の男が高山病という言い訳が付くが、元山岳部で日本の山を普通に登って高山病に罹るか?とか、怪物が脚を怪我していながら普通に歩き回れるか?とか、気配を感じさせずにいきなり男の背後に立てるか?とか、貞子のように俊敏に迫れるか?とか、ツッコミどころは満載なのだが、まさかの夢オチで矛盾点は解消される。
物語は、山岳部OBの二人、浅井(生田斗真)とジヨン(ヤン・イクチュン)が十数年前に遭難死したさゆり(奈緒)の慰霊登山をするが、吹雪の中、ジヨンが転落して脚を怪我。死を覚悟してさゆりの遭難死の真相、ジヨンが絞殺したことを告白する。
ところが視界が晴れて山小屋を発見。二人は中に避難するが、告白によって二人の間に奇妙な緊張感が生まれ…という展開。
ラストはどんでん返しで、さゆりの息の根を止めたのは浅井で、本当のモンスターはジヨンではなく浅井だったというオチ。
女に冷たくされたくらいで殺すか?とか、妊娠したくらいで殺すか?とか、山仲間の親友を簡単に殺すか?とか、女の死体が見つからないのはなぜか?とか、ホラーだから多少の疑問点は許すとしても、夢オチはない。
中でも最大の疑問は夏山で遭難したのに、なぜ冬山で慰霊登山をするのかということで、これが最大のホラーとなっている。
ヤン・イクチュンのモンスターぶりの演技は見どころ。 (評価:1.5)

違国日記
公開:2024年6月7日
監督:瀬田なつき 製作:太田和宏、小山洋平、桑原佳子、奥村景二 脚本:瀬田なつき 撮影:四宮秀俊 美術:安宅紀史、田中直純 音楽:高木正勝
ヤマシタトモコの同名漫画が原作。
交通事故で両親を亡くした少女(早瀬憩)と、彼女を引き取った漫画家の叔母(新垣結衣)の物語で、当初は打ち解けられなかった二人が少しずつ心の隙間を埋めてわかり合っていく、というドラマなのだろうと思われる。
思われるというのは、映画がその過程を描けてないためで、人物像が定型的な上に極めて薄っぺらで、記号的でしかない。
両親を亡くした割にはあっけらかんとした少女は、同情されるのが嫌なのか、死んだことを学校に知られたことから卒業式をボイコット。非常に反抗的かと思いきや、何故か能天気に叔母に友達のように接し始める。
コミ障とされる叔母はキャスティング・ミスなのか、単に気分屋にしか見えず、意味不明な行動をとる。
叔母と少女の姉は互いに嫌い合って絶縁状態という設定だが、その理由が説明されず、何か良く判らないままに誤解が溶けてしまう。
おそらく原作はもう少し丁寧に描かれているのだろうが、監督の力量不足なのか、はたまた脚本が悪いのか、それとも俳優の演技力が足りないのか、フィーリングだけで物語は進行してしまい、子宮を持たない男にはきっと理解できないのだろうと諦めるしかない。 (評価:1.5)

Broken Rage
公開:劇場未公開
監督:北野武 脚本:北野武 音楽:清塚信也
タイトルは壊れた怒りの意。
殺し屋が司法取引で覆面捜査官となり、ヤクザの麻薬取引を摘発するというのがストーリーの大筋。
このストーリーを前半はシリアス、後半はコメディで2回繰り返すが、ストーリー自体が平凡でつまらないので、後半はすぐに退屈する。
おまけにギャグが古臭く詰まらないので、次第に駄作を見せられている気分になる。
端的にいえばストーリーもギャグも黴臭い昭和の化石のようなもので、北野武監督のほとんど老害といっても良い作品になっている。
殺し屋のねずみをビートたけしが演じるが、腹が出ているのは愛嬌としても動きがヨロヨロで、杖で歩いた方が良い感じ。
ねずみを摑まえて司法取引をする刑事が浅野忠信と大森南朋だが、定型的なつまらない役どころの刑事なので、見どころはゼロ。
ヤクザの組長と若頭の中村獅童と白竜はまずまず。
配信コンテンツとして新たに挑戦する実験作と謳うが、北野の過去の映画とコントの凡庸をあげつらう自虐的なパロディでしかない。 (評価:1.5)












