海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

日本映画レビュー──2025年

ゆきてかへらぬ

製作:木下グループ、パパドゥ音楽出版、ギークピクチュアズ
公開:2025年2月21日
監督:根岸吉太郎 製作:山田美千代、小佐野保 脚本:田中陽造 撮影:儀間眞悟 美術:原田満生、寒河江陽子 音楽:岩代太郎

小生意気だが魔性の女には程遠い三井のすずちゃん
 長谷川泰子の自伝『中原中也との愛 ゆきてかへらぬ』が原作。
 松竹の大部屋女優だった長谷川泰子(広瀬すず)と中原中也(木戸大聖)との愛憎関係を描いたドラマで、中也の親友・小林秀雄(岡田将生)との三角関係を軸に中也が結核性の脳膜炎で死ぬまで。
 時代は大正から昭和初期で、CGを含めた美術はそれなりに当時の雰囲気を出している。演技も時代がかった舞台風の演出で大正ロマンを再現しているが、広瀬と木戸の演技がぎこちなくあまり成功していない。
 とりわけ広瀬が三井のすずちゃんを脱し切れてなく、小生意気ではあるが泰子の魔性の女には程遠く、中也や小林秀雄といった錚々たる文学者たちを翻弄する女になっていないのが辛い。
 泰子との愛憎によってもたらされる屈折した感情が、中也の天才的な詩作を生み出していくという肝腎要が描き出されていないため、通俗的な三角関係のドラマになってしまった。
 中也、小林の文学的人物像も希薄で、ダダイズムの映画にはなっていても文学性に乏しい。
 2時間をかけた作品だが、中也の『汚れつちまつた悲しみに』の一編の詩にも敵わない。 (評価:2.5)


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