海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──2024年

教皇選挙

製作国:アメリカ、イギリス
日本公開:2025年3月20日
監督:エドワード・ベルガー 製作:テッサ・ロス、ジュリエット・ハウエル、マイケル・A・ジャックマン、アリス・ドーソン、ロバート・ハリス 脚本:ピーター・ストローハン 撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ 美術:スージー・デイヴィーズ 音楽:フォルカー・バーテルマン

見どころはレイフ・ファインズの演技と原作付きのシナリオ
 原題"Conclave"で、邦題の意。ロバート・ハリスの同名小説が原作。
 公開中にフランシス教皇が逝去するという絶妙なタイミングで、内容的には前回の教皇選挙をきっかけに原作は書かれている。
 フランシスコ教皇はアルゼンチン出身で、ヨーロッパ以外から選ばれるのは8世紀以来、しかもシリア出身者。フランシスコの教皇名は初めてで、清貧を旨とするアッシジのフランチェスコを想起させる。
 本作で新教皇となるのはアフガニスタンのベニテス枢機卿で、無垢を意味するインノケンティウスを名乗る。  物語は教皇の臨終から始まり、首席枢機卿ローレンス(レイフ・ファインズ)を中心にコンクラーベが行われる様子を描く。
 コンクラーベの焦点は保守派と改革派の対立で、バチカンにおける人種や教区など多様性がテーマとなる。
 本命・対抗を中心に3分の2の枢機卿の支持が得られるまで繰り返し投票が行われるが、スキャンダルや買収などの陰謀が渦巻く展開で、イスラムとの宗教対立も出てくる。
 最後はフランシスコ教皇を連想させる穴馬のベニテス枢機卿の新教皇選出で幕を閉じる。
 2時間の作品だが舞台はシスティーナ礼拝堂から動かないため、もっぱらコンクラーベを巡る会話劇となるが、エドワード・ベルガーの演出は退屈で、凝っているようで効果のないカメラワークともども飽きる。
 これを救うのがレイフ・ファインズの演技とシナリオなのだが、最大の見どころである意外なオチは原作によるところが大きいので、映画としての面白さは条件付きとなる。 (評価:2.5)

メガロポリス

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製作国:アメリカ
日本公開:2025年6月20日
監督:フランシス・フォード・コッポラ 製作:フランシス・フォード・コッポラ、バリー・ハーシュ、フレッド・ルース、マイケル・ベダーマン 脚本:フランシス・フォード・コッポラ 撮影:ミハイ・マライメア・Jr 美術:ブラッドリー・ルービン、ベス・ミックル 音楽:オスバルド・ゴリホフ

知的エリートにとっての自由アメリカへの希望
 原題"Megalopolis"で、超巨大都市の意。
 現代アメリカをローマ帝国に見立てたSFファンタジーの寓話で、舞台はニューヨークならぬニューローマ。主人公は革命的な建築材料メガロンの発明でノーベル賞を受賞した建築家カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)。支配階級と大衆に分断されたニューローマを統合するユートピア的未来都市計画を発案するが、保守派の市長キケロ(ジャンカルロ・エスポジート)と対立。キケロはかつてカエサルを行方不明の妻殺害容疑で起訴、無罪になった因縁を持つ。
 女たらしのカエサルが実は愛妻家だったことを知ったキケロの娘ジュリア(ナタリー・エマニュエル)がカエサルを支援、恋人に。カエサルの元愛人でカエサルの富豪の叔父クラッスス(ジョン・ヴォイト)と結婚するテレビ司会者のワウ(オーブリー・プラザ)、カエサルの従弟でクラッススの相続を争うクロディオ(シャイア・ラブーフ)が絡む、権力と欲望の陰謀劇へと展開していく。
 登場人物の役名からも推測できるように共和制ローマの衰退を現代アメリカ民主主義の衰退に重ねていて、とりわけトランプ大統領を意識したかなりストレートな権力批判となっている。
 巨額な私財を投じたコッポラの辞世のような作品だが、全体にストーリーがわかりにくく、意味深な共和制ローマの人物名、カエサルの妻が妊娠していたことへの暗示や、革命的なメガロン、時を止めるカエサルの超能力も思弁的過ぎてわかりにくい。
 分断を乗り越えて、"Make America Great Again"ではなく建国の精神に立ち返ったアメリカの未来への希望を語るラストシーンは感動的なのだが、享楽的で腐敗した支配階級が中心に描かれる一方、大衆=市民の姿が薄く、結局のところ知的エリートにとっての自由の国アメリカへの希望でしかないのが惜しまれる。
 カエサルの運転手役のローレンス・フィッシュバーンが渋い。シセロのフィクサーにダスティン・ホフマン。 (評価:2.5)

製作国:アメリカ、イギリス
日本公開:2024年10月4日
監督:アレックス・ガーランド 製作:アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ、グレゴリー・グッドマン 脚本:アレックス・ガーランド 撮影:ロブ・ハーディ 美術:ケイティ・マクシー 音楽:ベン・ソーリズブリー、ジェフ・バーロウ
キネマ旬報:7位

これぞジャーナリズムというにはお子様ランチ
 原題"Civil War"で、内戦の意。
 アメリカの19州が連邦から離脱し、テキサスとカリフォルニアの西部勢力と連邦政府とが内戦になっている、という近未来?SF。
 設定は南北戦争の現代版・東西戦争で、奴隷制度がアメリカの分断社会に置き換わった形。そう仮想すれば、西軍は民主派、東軍は保守派で、西軍が東軍の本拠ワシントンD.C.に進軍し、最後に問答無用に首を取られるのはトランプ大統領ということになる。
 そうした点では極めて政治的で、民主派が溜飲を下げる内容。
 ストーリーはそうした設定下で、少女のように見える戦場カメラマン志望の23歳の娘(ケイリー・スピーニー)がプロカメラマンとなっていく成長物語で、ニューヨークからD.C.までの『ウォーキング・デッド』を想起させる黙示録的なロードムービー。
 ただ『ウォーキング・デッド』のような人間ドラマは皆無で、通り一遍のシナリオが詰まらなくて退屈する。
 成長物語とはいっても、闇雲に銃撃戦の中に飛び込んで兵士たちの写真を撮っているだけで、これぞジャーナリズムというにはお子様ランチ。
 内戦にしては描写が市街戦だけでリアリティに欠ける。
 娘が憧れる女性カメラマンは『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)で美少女ヴァンパイアを演じたキルスティン・ダンスト。 (評価:2)

蛇の道

製作国:フランス、日本、ベルギー、ルクセンブルク
日本公開:2024年6月14日
監督:黒沢清 製作:ダヴィド・ゴキエ、ジュリアン・デリス、小寺剛雄 脚本:黒沢清、オーレリアン・フェレンツィ 撮影:アレクシ・カヴィルシーヌ 美術:ニコラ・フリポ 音楽:ニコラ・エレラ

演出や映像テクニックを楽しむ玄人のためにサイコホラー
 原題"Le chemin du serpent"で、邦題の意。高橋洋脚本の映画『蛇の道』(1998)のセルフリメイク。
 オリジナル版は『CURE』(1997)の次の作品で、『CURE』のサイコパス的な雰囲気を継承している。
 パリに住む日本人女医(柴咲コウ)が患者アルベール(ダミアン・ボナール)の娘を殺害したグループの主犯探しに協力するという設定で、関係者を次々に拉致・監禁・殺害する。
 グループは臓器移植のための児童人身売買を行っていて、実は女医の娘も同じグループに殺害されている。それでアルベールに協力し、最後に辿り着くのがアルベールの妻。さらにアルベールも組織の一員だったという予想されるオチで、最後にはアルベールに手を下すところで終わる。
 サイコパスの雰囲気映画なので、ストーリーや設定を言い出すと穴は多く、すべてはサイコホラーのお約束と割り切って観ないといけない。そもそもストーリーと背景は雰囲気から推察するという作り方で、筋を追っていると隔靴掻痒で退屈する。演出やカットバック、編集といった映像テクニックを楽しむのが玄人的な見方かもしれない。
 西島秀俊が女医のクランケの一人として登場するが、話には絡まないので何のために出てきたのかよくわからない。 (評価:2)


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