海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──1916年

チャップリンの消防士

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン、ヴィンセント・ブライアン 製作:チャーリー・チャップリン 撮影:ウィリアム・C・フォスター、ローランド・トザロー

家の外壁を3階まで登る体を張った入魂のギャグ
 原題"The Fireman"。
 タイトル通りチャップリンは消防士の役で、2頭立ての消防馬車の御者を演じている。
 寝坊助チャップリンが消防署で巻き起こすドタバタから始まり、消防署長(エリック・キャンベル)が訪れた紳士(ロイド・ベーコン)の娘(エドナ・パーヴァイアンス)との婚約をエサにされて、紳士の保険金目当ての自宅放火に加担する。
 ところが娘が逃げ遅れてしまい、チャップリンが無事救出して娘と結ばれるという、いつもながらの展開。
 見せ場はチャップリンが娘を助けるために邸の外壁を3階まで登るシーン。別の家の火事では実際に家を燃やしてホースで消火するが、ずぶ濡れになりながらの体当たり演技で、ドタバタながらも体を張ったギャグに、チャップリンの入魂が見られる。 (評価:2.5)

チャップリンの舞台裏

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン 撮影:ローランド・トザロー

内幕もののスラップスティックなギャグが冴える
 原題"Behind the Screen"で、スクリーンの裏側の意。  映画スタジオが舞台で、道具係(エリック・キャンベル)の助手となったチャップリンが巻き起こすスラップスティック・コメディ。
 スタジオ内では王宮ドラマ、西部劇シーン、パイ投げのコメディの撮影と準備が並行して進み、道具係のストライキ、女優を断られて少年に変装して道具係として潜り込むエドナ・パーヴァイアンスがこれに絡む。
 大したストーリーも人情ドラマもなく、チャップリンらしい風刺もないが、内幕ものなのでスラップスティックなギャグは冴えていて、酒場の床に設けられた落し戸を使った体当たりギャグ、王宮ドラマの撮影も巻き込むパイ投げが可笑しい。
 金槌を使ったチャップリンの軽快なステップと動きは見もの。少年に扮したエドナ・パーヴァイアンスも可愛い。 (評価:2.5)

チャップリンのスケート

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン 撮影:ローランド・トザロー

サイレント時代の俳優たちのド根性も見もの
 原題"The Rink"で、スケート場の意。
 レストランの給仕をしているチャップリンが、ランチに出かけたところで、スケート場のベンチに腰かけているエドナ・パーヴァイアンスを見かけ、そのままローラースケート場へ。
 ここからがチャップリンの本領発揮で、スケート場を縦横無尽に走り回り、足をばたつかせながらの反りかえりなどの曲芸を見せてくれる。本作の見どころはほぼこれに尽きていて、チャップリンの身体能力の高さに舌を巻くが、前半のレストランでのドタバタも可笑しい。
 スケートリンクでは、ローラースケートの上手くないエリック・キャンベルほかも滑って転んでの体当たり演技で、サイレント時代の俳優たちのド根性も見もの。 (評価:2.5)

チャップリンの番頭

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 脚本:チャールズ・チャップリン

質草の時計をバラすといったベタなギャグが中心
 原題"The Pawnshop"で、質屋の意。
 質屋の店員の役で、店先・店内・保管室・炊事場が並ぶ。遅刻常習犯のチャップリンがダメ店員ぶりを発揮するというコメディで、脚立を使った体当たり系のギャグが中心。チャップリン自身が2階に届くような脚立に乗り、倒れるのが見せ場。
 パン生地や絞り器を使ったギャグ、質草の時計を客の前でバラバラにしたりというベタなギャグが展開されるが、最後は強盗をやっつけて質屋の娘と結ばれるというハッピーエンド。 (評価:2.5)

チャップリンの替玉

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン  製作:チャールズ・チャップリン 脚本:チャールズ・チャップリン、ヴィンセント・ブライアン  撮影:ウィリアム・C・フォスター、フランク・D・ウィリアムズ 美術:ジョージ・クリーソープ

エレベーターを使ったギャグが有効だったかは疑問
 原題"The Floorwalker"で、デパートの売り場主任の意。
 チャップリンはデパートに来た客の役で、騒動を起こした挙句、逃げ回ったところで店の売上を持ち逃げしようとした売り場主任と衣装を交換。
 チャップリンは売り場主任に化けて、一方チャップリンに化けた売り場主任が間違えられて店員らに捕まってしまう。売上持ち逃げには店長も噛んでいて、最後は売上金をめぐる3人の争奪戦となるが、尻切れトンボのよくわからないラストになっている。
 売り場主任とチャップリンの姿かたちがよく似ているというのがギャグのミソ。
 基本はスラップスティックなギャグのオンパレードだが、エレベーターを使ったギャグが盛り込まれたのが大きな特色。ただ、大掛かりな割にそれほど有効に使えたかは疑問。 (評価:2.5)

午前一時

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン 撮影:ローランド・トザロー

完成度の高いパントマイムの名人芸が楽しめる
 原題"One A.M."。
 酒で酩酊したチャップリンがタクシーで帰宅したところから始まり、タクシーのドア、玄関の鍵とラグ、猛獣の敷物、回転テーブル、階段、ベッド、などを使ったパントマイムを見せる。
 個々のギャグはそれなりに可笑しいが、基本は限られた小道具を使った小ネタのバリエーションで見せる舞台芸のため、ライブでは楽しめてもサイレント映画となると、似たようなネタの繰り返しに次第に飽きてくる。
 もっともラグで滑ってみせたり、何度も繰り返される階段落ちでは、チャップリンの身体能力の高さを確認することができ、ライブであればまったく違った感動が得られることは想像に難くない。
 玄関の鍵の見つからないチャップリンが窓から家に入り、ポケットの鍵に気が付いて、再び窓から外に出て鍵を開けて家に入り直すというギャグを始め、個々にはチャップリンのセンスの高さを窺わせるものが多く、完成度の高いパントマイムの名人芸が楽しめる。 (評価:2)

チャップリンの放浪者

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン、ヴィンセント・ブライアン 撮影:ウィリアム・C・フォスター、ローランド・トザロー

ジプシーに攫われた娘とのペーソス漂う作品
 原題"The Vagabond"で、放浪者の意。
 チャップリンは酒場のヴァイオリン弾き。酒場でひと騒動起こした後、ジプシーのキャラバンでこき使われている娘(エドナ・パーヴァイアンス)を救い出し、共同生活を始める。そこに画家がやってきて娘をモデルに絵を描き、出品されたその絵から両親が名乗り出て娘を引き取るというのが大筋。
 娘に恋していたチャップリンが失意に沈むと、娘が戻ってきて一緒に連れて行くというハッピーエンド。
 ストーリー性の強い作品だが、娘が少女の頃にジプシーに攫われたか迷子で拾われたというシンデレラ的伏線で、娘をチャップリンから引き取る時にも両親が小金を渡そうとする、ジプシーの描写を含めていささかの味の悪さがある。
 冒頭を除いてコメディ色が薄いが、片思い-失恋-ハッピーエンドという、その後のペーソスの漂うチャップリン作品のプロトタイプになっている。 (評価:2)

チャップリンの改悟

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:ジェス・T・ロビンズ 脚本:チャーリー・チャップリン 撮影:ハリー・エンサイン

笑いどころのないチャップリンの社会派作品
 原題"Police"で、治安の意。
 刑務所を出所したチャップリンがいきなり牧師を装った男に金をすられ、詐欺師が跋扈し貧民が溢れる街に放り出されるという物語。強盗に襲われるとそれが元の刑務所同房者で、今度は二人で母娘が住む屋敷に押し込み強盗。
 警察がやってきて同房者は逃げ出すものの、優しいチャップリンを気に入った娘(エドナ・パーヴァイアンス)は夫だと偽って助け、世の中見捨てたものではないというお話。
 ストーリー性の強い寸劇でスラップスティックにはなっているが、笑いどころは見いだせず、のちの人間性や社会性の強いチャップリンに繋がる作品となっている。 (評価:2)

チャップリンの伯爵

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン 撮影:ローランド・トザロー

舞踏シーンのチャップリンの体の柔軟さが見どころ
 原題"The Count"で、伯爵の意。
 テーラーで働いていたチャップリンは、クリーニングに出されたブロコ伯爵の服からマネーバッグス(金持ち)夫人に宛てた手紙を発見。その手紙に、舞踏会には行けないが娘は気に入るだろうと書かれていたことから、チャップリンが伯爵になりすまして舞踏会にやってくるという寸法。
 その手紙をテーラーの主人(エリック・キャンベル)も見つけて、二人がマネーバッグス嬢(エドナ・パーヴァイアンス)目当てにやってきて、恋の鞘当てをするというストーリー。
 最後に本物の伯爵が現れてドタバタ劇を演じた挙句、テーラーの主人は警官に捕まり、チャップリンは逃げおおす。
 ストーリー仕立てで筋はわかりやすいが、ギャグは全体に今ひとつの切れ味。見どころはむしろチャップリンの身体能力にあって、舞踏シーンでは体の柔軟なところを見せてくれる。 (評価:2)