海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──1915年

アルコール夜通し転宅(チャップリンの夜遊び)

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 製作:ジェス・T・ロビンズ 脚本:チャーリー・チャップリン 撮影:ハリー・エンサイン

見所はベン・ターピンとの絶妙なコンビ&エドナ初出演
 原題"A Night Out"で、夜遊びの意。
 チャップリンの酔っぱらいものだが、タイトルの夜の感じはない。
 チャップリンが友達と待ち合わせ、酔っぱらってレストランでトラブルを起こし追い出されてホテルに。そこでレストランの支配人と出くわして、別のホテルに移るというストーリー。
 酔っぱらいの友達ベン・ターピンと絶妙のコンビを演じる。前半、二人に絡む紳士にレオ・ホワイト、レストランの支配人にバド・ジェイミソン、その妻にこれが初出演のエドナ・パーヴァイアンス。
 支配人夫妻も新しいホテルの向い部屋に移ってきて、あらぬことからチャップリンとエドナが浮気したと誤解されたバドとひと悶着となり窓から放り出される。
 ステッキと帽子を使ったギャグ、口から飲み物や水を拭き出すギャグ、パイを使ったギャグなど多彩で、タイミングも絶妙に決まり、チャップリンのスラップスティック・コメディを堪能できる。 (評価:2.5)

チャップリンの掃除番

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 製作:ジェス・ロビンス 脚本:チャールズ・チャップリン

チャップリン映画のペーソスの萌芽を感じさせる
 原題"The Bank"。銀行が舞台で、チャップリンは雑用係。
 頭取秘書が出納係のチャーリーの恋していて、誕生日プレゼントのネクタイにラブメッセージを用意していたのを、それを見たチャップリンが自分のことだと勘違いして岡惚れしてしまうというストーリー。
 メッセージを添えた花束を秘書の机に置き、それを見た秘書が出納係からだと勘違い。チャップリンからのものとわかってゴミ箱にポイ。失意のチャップリンだが、銀行強盗がやってきて机の下に隠れた出納係に対し、秘書と金庫の危機をチャップリンが救って、頭取にも秘書にも褒められてメデタシメデタシというラスト。
 モップを使ったギャグなどもあるが、全体にストーリー性が強く、ドタバタはやや影を潜めている。スラップスティックだけでなく、後に発展していくチャップリン映画のペーソスの萌芽を感じさせる。
 秘書役はチャップリン映画の常連となるエドナ・パーヴァイアンス。 (評価:2.5)

チャップリンの役者

製作国:アメリカ
日本公開:2012年9月22日
監督:チャールズ・チャップリン 脚本:チャールズ・チャップリン、ローレラ・パーソンズ

シーンに変化がないため小粒感は否めない
 原題"His New Job"で、新しい仕事というのが撮影所の裏方。面接から始まり、大道具、エキストラなどで撮影現場を大混乱させるというスラップスティックなギャグが展開されるサイレント作品。
 チャップリンと、よく似たポパイ顔のベン・ターピンの息の合った演技が見どころで、基本は横スクロールの所長室・待合室・撮影スタジオ・大道具部屋が並んだ画面切り替えによるドタバタ。
 ドアを挟んだギャグや、殴り合いのギャグなど、チャップリンの基本的な笑いが楽しいが、4室だけで完結していて、シーンに変化がないため小粒感は否めない。
 タイピストに『サンセット大通り』(1950)のグロリア・スワンソン。 (評価:2.5)

チャップリンの駆落

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャーリー・チャップリン 脚本:チャーリー・チャップリン 製作:ジェス・T・ロビンズ 撮影:ハリー・エンサイン

売りは後半のカーチェイスで見せるアクション
 原題"A Jitney Elopement"で、ジトニーでの駆け落ちの意。ジトニーは当時の乗合タクシーで、T型フォード等が使われている。
 金持ち美人娘の恋人に伯爵との縁談が持ち上がり、伯爵に化けてチャップリンが恋人の家を訪れるというのがプロローグ。食卓を囲んでいると本物が現れ、摘み出されたチャップリンが伯爵とデート中の恋人を掻っ攫い、駆け落ちするというストーリー。
 この時、使われるのが伯爵の乗ってきたジトニーで、伯爵と娘の父親もまた車で追いかけるというカーチェイスが繰り広げられる。
 見どころはこのカーチェイスで、走る車を前後左右から移動カメラで撮影していて、当時としては斬新だったと思われる。
 もっともカーチェイスにほとんどギャグはなく、前半のコメディに比べて、後半はアクション映画になっている。 (評価:2.5)

チャップリンの女装

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 製作:ジェス・ロビンス 脚本:チャールズ・チャップリン 撮影:ハリー・エンサイン

女装だけでなく鬚も剃った優男の素顔が必見
 原題"A Woman"。
 公園に出かけて母娘と仲良くなったチャップリンが、家の招待されると、そこに先刻女の取り合いで池に突き落とした男がやってきて、それがその家の主と知れて、一悶着。娘の部屋に逃げたチャップリンが、娘の服に着替え、女装して父親を騙すが、それがばれてとスラップスティックなギャグが繰り返され、最後は家から放り出されるというオチ。
 最大の見どころはチャップリンの女装で、これが結構似合っている。ちょび髭も剃って優男になった素顔のチャップリンの顔が拝める。
 手当たり次第にナンパするチャップリンもチャップリンなら、妻子連れて公園に来た父親が若い女をナンパしてしまうという、チャップリン作品共通のおおらかなコメディ。 (評価:2.5)

国民の創生(國民の創生)

製作国:アメリカ
日本公開:1924年4月
監督:D・W・グリフィス 脚本:フランク・ウッズ、D・W・グリフィス 撮影:G・W・ビッツァー 音楽:ジョセフ・カール・ブレイル

アメリカ保守強硬派の黒人差別とKKKの正当化が参考になる
 原題"The Birth of a Nation"で、国家の誕生の意。トーマス・ディクソンの小説と戯曲" The Clansman"が原作のサイレント作品。
 南北戦争によって現代アメリカ合衆国が形成された歴史を描いたもので、内戦前後と奴隷解放、新国家建設、リンカーン暗殺までを描く第1部、黒人の権利獲得とクー・クラックス・クランの誕生を描く第2部で構成される。
 サイレント初期の作品で、映像的には様々な技法が試みられた画期的な作品だが、物語としてはKKK賛美の白人至上主義、人種差別映画で、積極的評価には値しない。
 もっとも本作を白人至上主義の黒人差別映画だと斬って捨てるのは簡単だが、当時上映禁止運動が起きたにも関わらず、多くの白人たちの共感を得て大ヒットしたという点からも、逆に現在のアメリカ保守強硬派による根強い黒人差別や、マイノリティに対する差別意識の根源を探る意味では、単純な良識からだけでは見えない発見がある。
 とりわけ第2部で、黒人の権利獲得が白人にとっては逆差別で、黒人に対する悪意と偏見に満ちたエピソードになっているものの、KKKの行為を正当化する論理が参考になる。
 本作で描かれる白人から見た黒人の姿は、人種や民族、国家間の対立で生じる誤解にも似ていて、あるいはストーカーの被害者から見える加害者の姿ということでも、相対的な視点の大切さを教えてくれる。
 物語は、南北に住む親友同士が内戦によって対峙し、終戦後は仲良くなってそれぞれの妹と恋仲になるが、黒人がのさばるようになってピンチに追い込まれ、最後はKKKによって救われるという、ドラマ性のない退屈な味付け。 (評価:2)

チャップリンの失恋

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 製作:ジェス・T・ロビンズ 脚本:チャールズ・チャップリン 撮影:ハリー・エンサイン

悪戯者から心優しき放浪者に変化する作品
 原題"The Tramp"で、放浪者の意。
 チャップリンが放浪者としてやってきて、三人組強盗に襲われる娘を助けたことから、父親の農場で働かせてもらうことになる。
 強盗をやっつけてしまうほどに強いチャップリンが、コミカルな役柄に似合わないが、牧草用の鍬で悪戯を繰り広げたり生卵を割るギャグも、意地悪ばあさんのようであまり愉快ではない。強盗三人組が農家に押し掛けるシーンでは、木槌で殴ったり、銃器までぶっ放すバイオレンスまで登場する。
 ラストは娘に恋したチャップリンが、娘に恋人がいるのを知って娘に宛てた手紙を置いて農場を去るというセンチメントで終わり、その後の心優しき放浪者へのキャラクターの変化を窺わせる作品となっている。 (評価:2)

チャップリンの寄席見物

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 製作:ジェス・ロビンス 脚本:チャールズ・チャップリン 撮影:ハリー・エンサイン

迷惑客チャップリンの悪意が前面に出た笑えないコメディ
 原題"A Night in the Show"で、ショーの夜の意。
 劇場にやってきたチャップリンが観客席で様々な騒動を引き起こすという物語で、二階席にはもう一人の酔っ払いがいて、こちらも高低差を利用した騒動を引き起こす。
 チャップリンの一人二役で、前半はチャップリン対観客・楽団のコメディ、後半はステージ上に踊り子・蛇使い女・歌手・奇術師が登場して、チャップリン・客席・舞台が一体となったコメディを展開する。
 基本は迷惑客チャップリンの悪戯によるスラップスティックなギャグで、パイ投げからホースによる放水とエスカレート。失敗というよりは悪意が前面に出た悪戯と、それを見て喜ぶ他の観客たちという、いささか味の悪い笑えないコメディとなっている。 (評価:2)