海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──1914年

とんだ災難

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 脚本:チャールズ・チャップリン 製作:マック・セネット 撮影:フランク・D・ウィリアムズ

丸い帽子にちょび髭、チャップリン初監督作品
 原題"Caught in the Rain"で、雨に降られるの意。チャップリンの初監督作品。
 女たらしのチャップリンが公園で婦人を口説いていると、夫が現れて夫婦喧嘩が始まるというプロローグ。
 チャップリンはバーで酔っ払い、ホテルで一休みしたところが向かいの部屋に件の夫婦がいて、夢遊病の妻がチャップリンの部屋にやってきて騒動となる。
 ドア、椅子、階段や小道具を使ったドタバタ・ギャグで、チャップリンの本領を発揮。丸い帽子にちょび髭と、チャップリン・スタイルの原型ができ上がっている。
 ベランダに逃げたチャップリンが折からの雨でずぶ濡れになり、というのが原題だが、警官隊もやってきて、最後はへとへとになって廊下に伸びてしまうというのが落ちで、雨に災難の意味を持たせた邦題が内容的にはしっくりくる。 (評価:2.5)

笑ひのガス

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 脚本:チャールズ・チャップリン 製作:マック・セネット 撮影:フランク・D・ウィリアムズ

歯科医院を舞台にしたどつき漫才が主体
 原題"Laughing Gas"で、笑気ガスの意。
 歯科医助手のチャップリンが診察室を中心に巻き起こすギャグで、どつき漫才が主体。麻酔が利き過ぎて眠ってしまった患者を覚醒するためにドラッグストアに出かけ、その途中で騒動になるが、顔にレンガを投げつけて歯痛患者が増え、歯科医院が繁昌するという練られたストーリーになっている。
 医者の代わりに患者の美女によからぬ診察をするというセクシャル・コメディも織り交ぜ、後年と比較して若干チャップリンらしからぬところもあるが、最後はレンガをぶつけた男がチャップリンに気づき、全員を道路に投げ飛ばしたところで、女性患者に張り倒されてオチと、いささかどつきが目立つのが難か。
 タイトルの笑気ガスは、麻酔に使っているガスのこと。 (評価:2.5)

成功争ひ

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:ヘンリー・パテー・レアマン:製作 マック・セネット

チャップリン初出演作という歴史的価値だけ
 原題"Making a Living"で、暮しを立てるの意。チャップリンの映画初出演作。
 シルクハットに泥鰌鬚、服の色もグレーで、まだチャップリン・スタイルは確立されていない。
 格好だけは伊達男だが一文無しの放浪者というのがチャップリンの役どころで、男から金をせびった挙句に美女の取り合い、記者の仕事を見つけるとなんと新聞社に件の男がいて、というのが導入。
 その日の午後、車の転落事故をスクープした新聞記者が警官たちと救助してる間にカメラと取材ノートを横取り。新聞社の持ち込んで号外の出る特ダネとなり、追いかけてきた新聞記者と大喧嘩、路面電車に乗っても喧嘩は続く・・・で、ジ・エンド。
 追いかけっこだけのよくわからないストーリーで、ドタバタだが面白いギャグはなく、チャップリンの魅力は出ていない。チャップリンの映画初出演作という歴史的価値だけの作品。 (評価:2.5)

チャップリンのパン屋

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 製作:マック・セネット 脚本:チャールズ・チャップリン、マック・セネット

ドツキ漫才が多くてギャグのキレは今ひとつ
 原題"Dough and Dynamite"で、パン生地とダイナマイトの意。
 レストランが舞台で、地下にパン工房がある。賃上げを要求したパン職人たちがストライキを起こし、スト破りに対抗するためにパンにダイナマイトを仕込んだところ、スト破りをしたウェイターたちがそれを竈に入れてしまい爆発、というストーリーのサイレント映画。
 チャップリンが扮するのはウェイターで、失敗ばかりを繰り返した挙句、こねたパン生地で手足の自由を奪われたりといったギャグをかますという流れだが、ドツキ漫才が多くてギャグのキレは今ひとつ。
 エントランス・ホール・厨房が横画面、地下のパン工房・竈、屋外の店先・裏庭が登場するが、いずれもスタジオ撮影で変化がない。 (評価:2)

新米用務員(新米雑役夫)

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:チャールズ・チャップリン 製作:マック・セネット 脚本:チャールズ・チャップリン

ストーリー性が強くコメディとしては面白みに欠ける
 原題"The New Janitor"で、邦題の意。
 チャップリンが会社の用務員となっての初仕事。オフィスの掃除を始めるが窓からバケツを落して下にいた社長にぶっかけて・・・といういつものパターンだが、ギャグの切れ味は今一つ。
 社長室から追い払われるものの、マネージャーがギャンブルでスッて、会社の金庫の金を盗もうとしたことから美人秘書(ミンタ・ダーフィ)を巻き込んでの大騒動となり、チャップリンがマネージャーをやっつけるというヒーロー・パターン。
 ストーリー性が強すぎるためかコメディとしては面白みに欠ける。 (評価:2)

アルコール先生お好みの気晴らし(彼の好みの気晴らし、彼がお好みの娯楽)

製作国:アメリカ
日本公開:劇場未公開
監督:ジョージ・ニコルズ 製作:マック・セネット 脚本:クレイグ・ハッチンソン 撮影:フランク・D・ウィリアムズ

段取りを踏んだ説明的なシナリオで笑いどころが掴めない
 原題"His Favourite Pastime"で、邦題の意。
 チャップリンの酔っぱらいもので、前半はパブ、後半は見初めた人妻の後を追って家に上がり込んでの騒動。
 パブでは酔っ払い同士の他愛ないギャグ、扉を使ったギャグが繰り返されるが、冗長でテンポがなく、メリハリにも欠ける。
 人妻の家ではメイドを交えてのよくわからないギャグが続き、帰ってきた亭主につまみ出されてチョン。
 キーストン時代のジョージ・ニコルズ監督による2作目だが、段取りを踏んだ説明的なシーンが続き、サイレントとしては笑いどころが掴めない。
 パブから人妻を追いかける際の、歩道からの転落や路面電車のぶら下がりシーンなど、チャップリンの体を張ったギャグが数少ない見どころ。 (評価:2)

泥棒を捕まえる人

製作国:アメリカ
日本公開:2011年4月9日
監督:フォード・スターリング  製作:マック・セネット 脚本:ヘンリー・レアマン

チャップリンが監督しなければ面白くないことを実感
 原題"A Thief Catcher"で、邦題の意。
 2010年に発見されたフィルムで、チャップリンもその存在を忘れていただけあって、チャップリンの登場も少なければ見所もないという短編16分。
 ピストルを持った悪者が人を突き落とすのを目撃した男が納屋に逃げ込むと、そこは悪者たちのアジト。悪者たちが帰ってきて隠れたり見つかったり逃げたりしているうちにチャップリンが署長の警官たちがやってきて、何事もなく帰っていくと悪者たちが買っている犬が密告? にやってきて再び出動。逮捕したようなよくわからない状況で幕となる。
 ドタバタにしては悪者たちがシリアスで、笑いどころもなければストーリーが面白いわけでもない。スタッフのクレジットを見ながら、チャップリン映画はチャップリンが監督しなければ面白くならないことを改めて実感する。 (評価:1.5)