日本映画レビュー──1934年
製作:松竹キネマ
公開:1934年11月22日
監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄 撮影:茂原英朗 美術:浜田辰雄
キネマ旬報:1位
父と子の相克を情感たっぷりに描くサイレントの名編
1959年にセルフリメイクされた『浮草』のオリジナル版で、サイレント作品。『出来ごころ』(1933)に続く喜八シリーズの第2作でもある。
基本的なストーリーは『浮草』と同じだが、旅芸人の一座がやって来るのは中山道の奈良井宿で、リメイク版の港町とは異なり、船ではなく汽車でやって来るほか、時代設定などによる若干の違いがある。
4年ぶりに奈良井宿にやってきた市川喜八一座の座長・喜八(坂本武)には、飲み屋を営む情婦おつね(飯田蝶子)と、農学校の補習科に通う隠し子・信吉(三井秀男)がいる。それを知った看板女優で女房のおたか(八雲理恵子)が嫉妬して、若い女優のおとき(坪内美子)に信吉を誘惑させるが、二人は本気で好き合ってしまい、事情を知った喜八とおたかが仲違い。一座はガタガタとなって解散してしまう。
父が河原乞食では信吉の出世に触ると喜八は素性を隠していたが、二人の仲を知って信吉を殴打。事ここに至っておつねは息子に喜八が父であることを告げる。
喜八は二人の仲を許し、再起を誓って一人旅に出るが、駅の待合室で行く当てのないおたかとバッタリ。和解して共にやり直すために上諏訪へと向かう。
『出来ごころ』同様、父と息子の相克がテーマで、共にそれぞれがそれぞれの道を往くという別れと自立の物語となっている。息子を思う父の気持ち、父を思う息子の気持ちが情感たっぷりに描かれ、言葉も弁士も必要のないサイレントの名編に仕上がっている。
小津安二郎らしい人同士の触れ合いと温かさに満ちた作品で、ラストの駅の待合室での喜八とおたかの和解のシーンは心に残る名場面となっている。 (評価:4.5)
公開:1934年11月22日
監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄 撮影:茂原英朗 美術:浜田辰雄
キネマ旬報:1位
1959年にセルフリメイクされた『浮草』のオリジナル版で、サイレント作品。『出来ごころ』(1933)に続く喜八シリーズの第2作でもある。
基本的なストーリーは『浮草』と同じだが、旅芸人の一座がやって来るのは中山道の奈良井宿で、リメイク版の港町とは異なり、船ではなく汽車でやって来るほか、時代設定などによる若干の違いがある。
4年ぶりに奈良井宿にやってきた市川喜八一座の座長・喜八(坂本武)には、飲み屋を営む情婦おつね(飯田蝶子)と、農学校の補習科に通う隠し子・信吉(三井秀男)がいる。それを知った看板女優で女房のおたか(八雲理恵子)が嫉妬して、若い女優のおとき(坪内美子)に信吉を誘惑させるが、二人は本気で好き合ってしまい、事情を知った喜八とおたかが仲違い。一座はガタガタとなって解散してしまう。
父が河原乞食では信吉の出世に触ると喜八は素性を隠していたが、二人の仲を知って信吉を殴打。事ここに至っておつねは息子に喜八が父であることを告げる。
喜八は二人の仲を許し、再起を誓って一人旅に出るが、駅の待合室で行く当てのないおたかとバッタリ。和解して共にやり直すために上諏訪へと向かう。
『出来ごころ』同様、父と息子の相克がテーマで、共にそれぞれがそれぞれの道を往くという別れと自立の物語となっている。息子を思う父の気持ち、父を思う息子の気持ちが情感たっぷりに描かれ、言葉も弁士も必要のないサイレントの名編に仕上がっている。
小津安二郎らしい人同士の触れ合いと温かさに満ちた作品で、ラストの駅の待合室での喜八とおたかの和解のシーンは心に残る名場面となっている。 (評価:4.5)
製作:松竹キネマ
公開:1934年6月28日
監督:島津保次郎 脚本:島津保次郎 撮影:桑原昴 美術:脇田世根一
キネマ旬報:2位
行方不明の姉を忘れた能天気で尻切れトンボのラスト
昭和初期の東京郊外の住宅地に住む中流サラリーマン2家庭を舞台にした物語で、他愛のない日常の中に小さな波紋が起きるが、何事もなかったように再び日常に戻ってしまう、泡沫のような小市民生活の極致を描く。
新海家の裏庭を挟んで隣同士なのが服部家で、その家の次女が女学生の隣の八重ちゃん(逢初夢子)。新海家の兄弟とは大の仲良しで、勝手に服部家に上がり込んで飯を食っていく兄の恵太郎(大日方伝)は帝大生の二枚目で、八重の憧れ。弟の精二(磯野秋雄)は中学球児でしょっちゅう服部家の窓ガラスを割るが、八重の母(飯田蝶子)は鷹揚で気にも留めない。
そこに八重の姉・京子(岡田嘉子)が、亭主の女癖を理由に婚家から逃げ出してくる。慰める恵太郎に腹いせとばかりにモーションをかけ、フラれると家出してしまう。
両家総出で京子を探すが行方知れず。そこへ八重の父(岩田祐吉)が朝鮮に転勤することになり、八重を新海家に預けて、両親は引っ越してしまうが、八重の「これで隣の八重ちゃんではなくなるわね」という暢気なセリフで締め括られ、みんな京子のことは気にもかけない。
日常を切り取っただけのホームドラマで、あまりに能天気すぎる尻切れトンボのラストに涙が出るが、両家の人物はそれぞれに良く描き分けられているのが救い。
京子の気晴らしに両家の兄弟姉妹が一緒に映画館に行くが、上映されているのがアニメーションの『ベティ・ブープ』で、本作のホームコメディを象徴する。
新海家の両親に水島亮太郎、葛城文子。八重の学友に高杉早苗。岡田嘉子のスキャンダラスな姉ぶりがいい。 (評価:2.5)
公開:1934年6月28日
監督:島津保次郎 脚本:島津保次郎 撮影:桑原昴 美術:脇田世根一
キネマ旬報:2位
昭和初期の東京郊外の住宅地に住む中流サラリーマン2家庭を舞台にした物語で、他愛のない日常の中に小さな波紋が起きるが、何事もなかったように再び日常に戻ってしまう、泡沫のような小市民生活の極致を描く。
新海家の裏庭を挟んで隣同士なのが服部家で、その家の次女が女学生の隣の八重ちゃん(逢初夢子)。新海家の兄弟とは大の仲良しで、勝手に服部家に上がり込んで飯を食っていく兄の恵太郎(大日方伝)は帝大生の二枚目で、八重の憧れ。弟の精二(磯野秋雄)は中学球児でしょっちゅう服部家の窓ガラスを割るが、八重の母(飯田蝶子)は鷹揚で気にも留めない。
そこに八重の姉・京子(岡田嘉子)が、亭主の女癖を理由に婚家から逃げ出してくる。慰める恵太郎に腹いせとばかりにモーションをかけ、フラれると家出してしまう。
両家総出で京子を探すが行方知れず。そこへ八重の父(岩田祐吉)が朝鮮に転勤することになり、八重を新海家に預けて、両親は引っ越してしまうが、八重の「これで隣の八重ちゃんではなくなるわね」という暢気なセリフで締め括られ、みんな京子のことは気にもかけない。
日常を切り取っただけのホームドラマで、あまりに能天気すぎる尻切れトンボのラストに涙が出るが、両家の人物はそれぞれに良く描き分けられているのが救い。
京子の気晴らしに両家の兄弟姉妹が一緒に映画館に行くが、上映されているのがアニメーションの『ベティ・ブープ』で、本作のホームコメディを象徴する。
新海家の両親に水島亮太郎、葛城文子。八重の学友に高杉早苗。岡田嘉子のスキャンダラスな姉ぶりがいい。 (評価:2.5)
母を恋はずや
no image
製作:松竹キネマ公開:1934年5月11日
監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄 撮影:青木勇
幼い時に父を亡くした先妻の子と、継母との母子愛を描いたサイレント作品。全9巻の内、第1巻と最終巻が欠けていて、映像は父が死んだ直後から、二人が和解する直前までとなっている。
父の死後、継母に育てられた長男(大日方伝)は、生母と思っていた母(吉川満子)がそうではないことを思春期に知り、実子でないが故に異母弟(三井秀男)よりも優遇されているように思い始める。
大学生になって家計の苦しさを弟から聞かされ、弟同様に接してほしいと思うあまり母に厳しく当たるようになるが、それが弟との性格の違いによるものだと母から聞かされ、母と弟を思うあまりわざと二人と喧嘩して家を出てしまう。
かつて学友(笠智衆)が引かれたチャブ屋の女(逢初夢子)の部屋に今度は長男が居着くことに。心配して訪ねてきた母を追い返すのを見てチャブ屋の掃除婦(飯田蝶子)が諭し、ようやく長男の心が解ける。
サイレントながらも親子の心の機微を丁寧に描く演出が、戦後の小津安二郎の小市民家庭劇に通じるところがあって、小津の原点を確かめることができる。
もっとも無声の中でのとりとめのないストーリーは変化とテンポに乏しく、穏やかな眠りに誘う。
まったりとした中で、ちょっと蓮っ葉な風俗嬢の逢初夢子がいい。 (評価:2.5)
no image
製作:新興キネマ公開:1934年5月10日
監督:村田実 脚本:国広周禄 撮影:青嶋順一郎 美術:水谷浩司
キネマ旬報:9位
大佛次郎の同名小説が原作。サイレント映画。
明治初期の横浜外人居留地が舞台で、有色人種は人でなしの悪徳外人クーパー(菅井一郎)の屋敷で働く千代吉(中野英治)と洋妾お花(志賀暁子)の悲恋を描く和製ロミオとジュリエット。
千代吉が下男となったのはクーパーの財布を掏ろうとして失敗したのがきっかけ。代官坂のチンピラ富(小坂信夫)を子分にし、チャブ屋の女給お花と恋に落ちるが、チャブ屋は顔役・豚常(村田宏寿)の支配で、お花はクーパーに囲われているという定型的な設定。
それを知った千代吉はクーパーに宣戦布告、一方クーパーは千代吉を船に監禁。お花と手を切ることを条件に別の外人の下男に斡旋する。
お花が助命嘆願をしたと豚常に教えられた千代吉は、チャブ屋に乗り込みクーパーからお花を奪うが、二人とも豚常に射殺されてしまう。
演技も演出も今一つで全体にテンポが緩いので、睡魔に襲われる。
もっとも冒頭のカモメが舞い外国船が停泊する横浜港の描写が写実的で、全体にリアリズムを志向している。
明治維新後の西洋との不平等な関係、西洋コンプレックスが背景に描かれるが、一瞬、太平洋戦争後の進駐軍とダブって見えてしまうのが面白い。
菅井一郎の西洋人メイクがよく出来ていて、外人に見える。 (評価:2)