海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

日本映画レビュー──1910年

忠臣蔵

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製作:横田商会、日活京都
公開:1910年9月1日
監督:牧野省三

全通しの『忠臣蔵』という歴史的価値が作品のすべて
※国立映画アーカイブ・デジタル復元最長版
 「吉良の浅野いじめ」から「四十七士の最期」に至る本伝の各場を初めて全通ししたサイレント作品で、1910年の横田商会版を基に1917年頃にかけて増補・改訂された。
 各場の全通しなので、映画として見た場合には舞台の各場を繋いだだけという印象は免れず、1本の作品とした見た場合には断片化した物語を見せられているようで、近代的な映画作法としては滑らかさに欠ける。
 各場の描写も舞台ならともかく映画としてはテンポに欠けて冗長。浅野いじめや切腹のシーンを延々と見せられても退屈で欠伸が出る。
 それでも話が大石内蔵助に移るとようやくストーリー感が出てくるが、殺陣のシーンは舞台の型の演技なので、映画のアクションシーンとしては今三つ。これはクライマックスの討入りにも表れていて、それぞれの殺陣のシーンがブツ切れになっていて迫力とか爽快感とかドラマ性、ストーリー性といったものは皆無。
 子供が描いたような書割の稚拙さは初期サイレントだから大目に見るにしても、大石内蔵助・浅野内匠頭・清水一角を演じ分ける尾上松之助の表情豊かな演技とコメディ時代劇かと思わせるようなギャグシーンの多少の工夫を除けば、舞台そのままの板付きの演技と演出ばかりで映画としての妙味に欠ける。
 牧野省三による黎明期のサイレント映画という点と、全通しの『忠臣蔵』という歴史的価値が作品のすべて。 (評価:2.5)


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