外国映画レビュー──1922年
製作国:ドイツ
日本公開:劇場未公開
監督:F・W・ムルナウ 脚本:ヘンリック・ガレーン 撮影:ギュンター・クランフ、フリッツ・アルノ・ヴァグナー
ドラキュラ映画とは一味違う、吸血鬼映画の古典的名作
原題は"Nosferatu – Eine Symphonie des Grauens"で、ノスフェラトゥ-恐怖の交響曲の意。Nosferatuは不死者・吸血鬼を意味する。
ブラム・ストーカーの"Dracula"(吸血鬼ドラキュラ)を映画化しようとして、著作権者の許諾が得られずにタイトルと内容を変更して制作されたが、ストーリーはブラム・ストーカーの小説の筋に沿っている。
架空の町ヴィスボルクに住む青年フッター(原作はハーカー)が、勤めている不動産屋に届いた手紙で依頼人の住むトランシルヴァニアに向かう話で、ヴィスボルクのモデルはドイツのヴィスマール。依頼人のドラキュラ伯爵は、オルロック伯爵に変更されている。
ベラ・ルゴシが『魔人ドラキュラ』(1931)で演じたドラキュラが、その後の吸血鬼像の原型となったが、マックス・シュレックが演じたノスフェラトゥはこれとは大きく異なり、前歯の尖った海坊主のような禿頭で、ひょろひょろとした造形をしている。
トランシルヴァニアの廃墟に住んでいて、来る者に古城の幻覚を見せるが、幽霊ないしは怪物、または死体で、鬼のような吸血鬼像ではなく、東欧の吸血鬼伝承の生きている死体のイメージに忠実。
変更を余儀なくされたブラム・ストーカー原作のオリジナリティ溢れるドラキュラよりは、東欧の吸血鬼伝承のヴァンパイアの特徴に沿っていて、ペストを引き連れて欧州大陸に上陸するという、これまた歴史・民俗学に沿った吸血鬼像となっている。
劇伴もタイトル通りの重厚なシンフォニーで、ロケを中心にした凝った映像は、サイレント時代においても本格的で格調高い作品となっている。
キャラクター性とエンタテイメント性の強いドラキュラ映画とは一味違う、吸血鬼映画の古典的名作。 (評価:2.5)
日本公開:劇場未公開
監督:F・W・ムルナウ 脚本:ヘンリック・ガレーン 撮影:ギュンター・クランフ、フリッツ・アルノ・ヴァグナー
原題は"Nosferatu – Eine Symphonie des Grauens"で、ノスフェラトゥ-恐怖の交響曲の意。Nosferatuは不死者・吸血鬼を意味する。
ブラム・ストーカーの"Dracula"(吸血鬼ドラキュラ)を映画化しようとして、著作権者の許諾が得られずにタイトルと内容を変更して制作されたが、ストーリーはブラム・ストーカーの小説の筋に沿っている。
架空の町ヴィスボルクに住む青年フッター(原作はハーカー)が、勤めている不動産屋に届いた手紙で依頼人の住むトランシルヴァニアに向かう話で、ヴィスボルクのモデルはドイツのヴィスマール。依頼人のドラキュラ伯爵は、オルロック伯爵に変更されている。
ベラ・ルゴシが『魔人ドラキュラ』(1931)で演じたドラキュラが、その後の吸血鬼像の原型となったが、マックス・シュレックが演じたノスフェラトゥはこれとは大きく異なり、前歯の尖った海坊主のような禿頭で、ひょろひょろとした造形をしている。
トランシルヴァニアの廃墟に住んでいて、来る者に古城の幻覚を見せるが、幽霊ないしは怪物、または死体で、鬼のような吸血鬼像ではなく、東欧の吸血鬼伝承の生きている死体のイメージに忠実。
変更を余儀なくされたブラム・ストーカー原作のオリジナリティ溢れるドラキュラよりは、東欧の吸血鬼伝承のヴァンパイアの特徴に沿っていて、ペストを引き連れて欧州大陸に上陸するという、これまた歴史・民俗学に沿った吸血鬼像となっている。
劇伴もタイトル通りの重厚なシンフォニーで、ロケを中心にした凝った映像は、サイレント時代においても本格的で格調高い作品となっている。
キャラクター性とエンタテイメント性の強いドラキュラ映画とは一味違う、吸血鬼映画の古典的名作。 (評価:2.5)
日本公開:1924年1月
監督:ジョン・S・ロバートソン 脚本:ルパート・ヒューズ 撮影:チャールズ・ロッシャー
キネマ旬報:(娯楽的に最も優れた映画)9位
原題"Tess of the Storm Country"で、邦題の意。グレイス・ミラー・ホワイトの同名小説が原作のサイレント映画。
同じメアリー・ピックフォード主演で、エドウィン・S・ポッター監督の1914年の同名サイレント映画のリメイク。
テス(メアリー・ピックフォード)の一家は、丘の上に屋敷を構えるグレイヴス(デビッド・トレンス)の土地の端に、仲間と共に棲みついて、魚を獲って暮らしている不法占拠者。グレイヴスはこれを追い出そうと、娘テオラ(グロリア・ホープ)の恋人ジョーダン(ロバート・ラッセル)に命じて、違法な網で漁をしているところを摘発しようとするが、テスに片思いする青年ベン(ジーン・ハーショルト)にジョーダンが射殺されてしまう。
銃の所有者であるテスの父スキナー(フォレスト・ロビンソン)が犯人とされ刑務所に入るが、テオラは妊娠していて、入水自殺しようとしてテスに助けられる。事情を知ったテスは生まれたテオラの子を引き取るが、不法占拠者に同情的でテスを愛して将来を約束しているグレイヴスの息子フレデリック(ロイド・ヒューズ)が、それを見てテスがほかの男との子を産んだと誤解。赤ん坊は衰弱死してしまい、テスは神に迎えられるように教会の礼拝に出掛け、自らの手で洗礼を施す。
動転したテオラは真実を告白。テスは疑ったフレデリックを拒否して、真犯人が明らかになり釈放された父スキナーの待つ家に帰る。フレデリックはグレイヴスと共に謝罪に訪れ、二人の結婚が許されるというのが、ストーリーの大筋。
冒頭、己の如く汝の隣人を愛すべし、というイエスの言葉が掲げられ、教えを忘れたグレイヴスがテスの清浄によって心を入れ替える宗教物語となっている。無学なテスが他人の罪を負ったスキナーをイエスに比定するのに対し、グレイヴスが神への冒涜だと非難する場面があり、本当の信仰心を身に着けたテスが死んだ子の洗礼という冒涜によってそれを覆すことで、形骸化した宗教への批判となっている。
熱演するサイレントの大女優メアリー・ピックフォードの一人舞台となっているが、無邪気な17歳のテスというよりは30歳のピックフォードのじゃじゃ馬ぶりが際立っていて、聖女のように無垢な少女に見えないのが少々残念なところか。
赤子を抱いてテスが洗礼のために教会にやって来る一連の演技が感動的。 (評価:2.5)
日本公開:1924年5月
監督:アルバート・パーカー 製作:F・J・ゴッドソル 脚本:マリオン・フェファックス、アール・ブラウン 撮影:J・ロイ・ハント 美術:チャールズ・L・カドウォールーダー
キネマ旬報:(娯楽的に最も優れた映画)5位
原題"Sherlock Holmes"。ウィリアム・ジレットとアーサー・コナン・ドイルの戯曲(1899)が原作のサイレント映画。
戯曲はオリジナルで、小説から「ボヘミアの醜聞」「最後の事件」「緋色の研究」の要素が取り入れられている。
ホームズ(ジョン・バリモア)はケンブリッジのセント・ジョーンズ・カレッジの学生。ワトソン(ローランド・ヤング)は学友で、同じカレッジの留学生アレクシス王子(レジナルド・デニー)が窃盗事件に巻き込まれたことから、真相解明の相談を受けるというのが物語の発端。
犯人は学生のウェルズ(ウィリアム・H・パウエル)で、後ろ盾となっているモリアーティ(グスタフ・フォン・セイファーティッツ)から逃れるための資金に盗んだとホームズに告白。
王子の疑惑は晴れるが、兄二人が交通事故死したために皇太子となり、婚約者ローズ(ペギー・ベイフィールド )を捨てて帰国。結婚式のためにスイスで待っていたローズは自殺してしまう。
数年後、王子がオルガ王女と婚約することを知ったローズの妹アリス(キャロル・デンプスター)は、王子が結婚すれば遺品の数通の恋文をオルガ王女に送り、新聞に公表すると王子に手紙を送る。
ベーカー街で探偵となったホームズは、王子から恋文の回収の依頼を受ける。学生時代にアリスに会ったことのあるホームズは、王子の不実から乗り気ではなかったが、嗅ぎつけた巨悪モリアーティが王子を恐喝するためにアリスを軟禁したことを知って依頼を受ける。
ホームズはアリスを騙して一旦恋文を手に入れるが、モリアーティを捕まえるための餌にするために彼女に返す。以下、フィルムの欠落部分が多く、ストーリーの詳細がわからない。復元フィルムは109分で、欠落は26分余り。 モリアーティが探偵事務所でホームズを襲い、逆に捕まってしまうが、なぜか放免され、おそらく恋文を秘匿するアリスを脅すためにモリアーティがガス室に連れて行くと、ホームズが忍び込んでアリスを救出。
おそらくモリアーティの仕業で探偵事務所が火事になり、ワトソンのオフィスにやってくると踏んでモリアーティが刺客を送りこむが、逆にホームズが罠にかけて御者に化けたモリアーティを逮捕するという結末。
ミステリーなのでストーリーは複雑。登場人物が多い上に、舞台劇のため場面転換が少なく、台詞や手紙の文面での説明が主体で、何度か見直さないとストーリーがわかりづらいのが恨み。
堅物ホームズのコミカルな描写もあり、アリスに一目惚れした挙句、思い続けて最後は結婚にゴールインでやに下がるという、美男バリモアを配した映画らしい演出も見どころになっている。 (評価:2.5)