海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──1926年

製作国:アメリカ
日本公開:1927年2月9日
監督:マウリッツ・スティレル 脚本:ジュールス・ファースマン 撮影:バート・グレノン
キネマ旬報:7位

帝国ホテルという割には駅前旅館程度なのが微笑ましい
 原題"Hotel Imperial"で、邦題の意。ラホス・ビロのハンガリーの戯曲"Szinmü négy felvon"が原作のサイレント映画。
 1915年のガリツィア地方リヴィウの街が舞台。リヴィウは現在のウクライナ西部にあり、当時はオーストリア=ハンガリー帝国で、一時的にロシア軍に占領されているという状況下。
 ロシア軍に追われたオーストリア=ハンガリー帝国の将校ポール(ジェームズ・ホール)が、帝国ホテルに逃げ込み、ウェイターに化けて潜伏。そこにロシア軍がやってきて司令部を置いたことから、ポールがスパイ。作戦を自軍に伝えて見事、ロシア軍を撃退するという物語。
 この間、ポールを匿うメイドのアンナ(ポーラ・ネグリ)と恋に落ちるが、身分違いから結婚を諦めたアンナに対し、軍功を立てて凱旋したポールがアンナにプロポーズするというハッピーエンドで締め括られる。
 ホテルに陣取るロシア軍の将軍が女好きで、アンナを口説こうとしたり、ロシア側のスパイを銃殺したり、その犯人と疑われたポールをアンナが窮地から救ったりというエピソードがあって、馴染みのない舞台設定ながら楽しめる。
 もっとも帝国ホテルという仰々しい名前の割にはホテルマンが3人しか出て来ず、駅前旅館程度なのが名前負けしていて微笑ましい。
 妖艶で肝っ玉のヒロインのポーラ・ネグリが見どころで、終盤で文字通り片肌脱いでくれる。
 行きがかりから最初にプロポーズするのはアンナの方で、"We belong to each other."が決め手。 (評価:2.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1927年3月18日
監督:ハーバート・ブレノン 脚本:ポール・ショフィールド 撮影:J・ロイ・ハント 音楽:ヒューゴ・リーゼンフェルド
キネマ旬報:4位

戦記とミステリーと兄弟愛を融合させた楽しめるメロドラマ
 原題"Beau Geste"で、主人公の名。パーシヴァル・クリストファー・レンの同名小説が原作。
 舞台はサハラ砂漠。アラブ人に包囲されたフランス分隊救援のために、ボジョレー少佐率いるフランス外人部隊大隊が砦に向かうところから始まる。斥候を送るも戻らず、少佐自らが乗り込み、全滅したフランス軍と謎のメモを手に死んでいる指揮官を発見する。
 そのメモというのがスコットランドヤード署長に宛てた宝石盗難の犯人は自分だというもの。しかも少佐が城門を開けた直後、司令官の死体が消え、砦は炎上。
 戦記物と思いきやミステリーとなり、次に話は過去に飛んで実は兄弟愛の物語だったという、手の込んだストーリーになっている。
 三兄弟は幼い頃に戦争ごっこをしていて、バイキングの葬儀の真似っこをする。長男のボーは次男のディグビーに、自分が先に死んだらバイキングの葬儀を行うように約束させるが、これが冒頭のサハラ砂漠の砦炎上に結び付くという伏線になっている。
 三人は立派な青年に成長するが、三人を育ててくれた叔母(アリス・ジョイス)は養育費のために家宝の宝石を売って模造品に替えてしまったために、叔母の夫から宝石売却話が起きて窮地に陥る。
 叔母を救うためにまずボー(ロナルド・コールマン)が模造品を盗んで逃亡。それを知ったディグビー(ニール・ハミルトン)は兄を庇って失踪。三男ジョン(ラルフ・フォーブス)も恋人(メアリー・ブライアン)に自分が犯人だと告げるように言って去ってしまう。
 三兄弟が外人部隊で再会し…と話は続き、ボーとジョンの分隊の指揮官による宝石を狙った策略、ボーの死、ジョンの指揮官殺害と逃亡、ボジョレー少佐の斥候となって砦に入ったディグビーのボーの死体発見、バイキングの葬儀、ジョンとの再会と逃避行…と兄弟愛の物語は続く。
 最後は1人になったジョンがイギリスに戻り、ボーの手紙を叔母に渡して真実が語られて終わる。
 時制を転換して真実を解き明かしていくミステリー手法と、全体を貫く良き兄弟のメロドラマが上手く融合していて、楽しめる作品になっている。 (評価:2.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1927年9月
監督:アラン・クロスランド 脚本:ベス・メレディス 撮影:バイロン・ハスキン 音楽:ウィリアム・アクスト
キネマ旬報:10位

サイレント・スター、ジョン・バリモアの軽快なアクション
 原題"Don Juan"。バイロン卿の1821年の同名叙事詩をベースとするサウンド版サイレント映画。ジョン・バリモアがドン・ファンを演じる。
 ドン・ファンの父ドン・ホセ(ジョン・バリモアの二役)は、妻に裏切られて女性不信になり、多くの愛妾を侍らすが、嫉妬からその一人に刺殺されてしまう。そうした父の教えからドン・ファンはただのプレイボーイとなってローマに遊学、浮名を流す。
 そのドン・ファンを執政ボルジア(ワーナー・オーランド)の妹ルクレチア(エステル・テイラー)が我が物にしようとするが、ドン・ファンはボルジアの政敵デラ・ヴアーネズ公爵(ジョセフ・スウィッカード)の娘アドリアナ(メアリー・アスター)が他の女とは違い貞淑なことを知って恋してしまう。
 以下、権力を背景にアドリアナと結婚式を挙げようとしたボルジア側近のドナテイ伯(モンタギュー・ラヴ)との決闘を経て、ドン・ファンがアドリアナともども投獄され、二人が脱出してめでたくスペインに旅立つまでが描かれるが、定型的な恋物語なのでアクションに移るまでの前半が若干たるい展開となっている。
 映画そのものは112分の大作で、アクションシーンを含め見応えのある作品になっている。ジョン・バリモアがサイレント期のスターらしく身軽で、バルコニーに登ったり馬を駆ったり剣劇を披露するのも見どころ。 (評価:2.5)

グリビッシュ

製作国:フランス
日本公開:劇場未公開
監督:ジャック・フェデー 脚本:ジャック・フェデー 撮影:モーリス・デファシオー、モーリス・フォルステール

上流界の人々と庶民とのマナーや生活習慣の違いが面白い
 原題"Gribiche"で、主人公の名。フレデリック・ブーテの短編小説が原作。
 戦争未亡人を母に持つ模範少年グリビッシュ(ジャン・フォレスト)が、デパートで上流夫人マラネット(フランソワーズ・ロゼ)が落としたハンドバッグを拾い、それを正直に持ち主に返したことから、上流夫人がグリビッシュを気に入り、きちんとした教育を受けさせるために養子に迎えるというサイレント映画。
 母には結婚を申し出る男がいて、自分の存在が障碍になっていることを知ったグリビッシュは養子の話を受諾するという孝行息子でもあり、若干優等生すぎるのが難だが、話の中心はマラネットが慈善家であることを上流界に吹聴するのが目的で、グリビッシュを人形のように自分の意に染む子供に育てるため、執事と家政婦に厳しい躾を命じ、何人もの家庭教師をあてがう。
 グリビッシュの身の上を貧民のように誇張され、窮屈な生活に押し込められたグリビッシュはそれでも模範少年として従うが、パリ祭の夜、外出を禁じられたことからついに家出を決意。再婚した母の家に迎えられる。
 グリビッシュが養子を受諾した本心を知った母は、グリビッシュを連れてマラネットの屋敷を訪れ、親子が共に暮らすことの賛意を得るという結末。
 ストーリー自体は平凡だが、上流界の人々の偽善や欺瞞がテーマになっていて、庶民とのマナーや生活習慣の違いが面白い。 (評価:2)

製作国:アメリカ
日本公開:1926年10月
監督:アルバート・パーカー 脚本:ジャック・カニンガム 撮影:ヘンリー・シャープ
キネマ旬報:7位

フェアバンクスのアクロバティックな海賊アクション
 原題"The Black Pirate"。サイレント映画だが、赤・緑の二色法によるテクニカラー映画として制作された。
 商船が海賊船に襲われ、一人生き残って無人島に流れ着くのが主役のダグラス・フェアバンクス。無人島にお宝を埋めに来た海賊の頭目(アンダース・ランドルフ)とのタイマン勝負に勝って仲間入り。
 ブラック・パイレートを名乗って頭目争いの手始めに商船を襲うが、船は沈めず、乗っていたプリンセス(ビリー・ダヴ)を人質に身代金を要求することを提案。ところがプリンセスを我が物とせん副頭目(サム・ド・グラッス)が身代金を受け取りに向かった商船を爆破。プリンセスに一目惚れしたブラック・パイレートはこっそり逃がそうとするが見つかって海に放り出される。  しかし片腕の海賊(ドナルド・クリスプ)の協力で助かったブラック・パイレートは陸の強者を率いてガレー船で海賊船を襲撃、副頭目一味を退治する。
 ラストは船にやってきた総督からブラック・パイレートが実は公爵だと聞かされたプリンセスが、めでたくプロポーズされるハッピーエンド。無人島のお宝は結婚祝いに片腕の海賊たちからプレゼント。結局はヒーローもヒロインも貴種だったというメルヘンな結末にガックリくる。
 ストーリーは平凡なのでかったるい演出が続くと少々眠くなる。
 見どころはアクロバティックなアクションシーンで、フェアバンクスが船に張ったロープや艦橋を曲芸師のように渡ったり、帆にナイフを立てて落下したりする。 (評価:2)

女優ナナ

製作国:フランス
日本公開:1927年4月
監督:ジャン・ルノワール 脚本:ピエール・レトランゲェ 撮影:ジャン・バクレー、C・E・カウイン、ジョルジュ・アセリン 美術:クロード・オータン・ララ

カンカン踊りで帽子を落とすパフォーマンスが見どころ
 原題"Nana"で、主人公の名。エミール・ゾラの同名小説が原作で、『居酒屋』の続編。
 3時間近いサイレント映画で、オーバーアクションはともかく、くどいくらいに演技を引っ張るので、テンポの遅さに巻きを入れたくなる。
 舞台は19世紀半ば、第二帝政期のパリ。ヴァリエテ座の舞台女優となったナナは、外連や露出で見せる演技で人気者になる。
 有力者・ミュファ伯爵の援助を受けて強引に主役の座を横取り。しかし演技力がないために公演はコケ、ヴァンドゥーヴル伯爵の甥ジョルジュを情人にした挙句、ヴァンドゥーヴル伯爵まで虜にし、芝居を辞めて高級娼婦になる。
 贅沢な暮らしをするナナの歓心を得るためヴァンドゥーヴル伯爵は困窮、ナナと命名した愛馬で競馬の不正を働き、ナナにも捨てられて自殺。ナナとミュファ伯爵の情事を目撃したジョルジュも自殺してしまう。
 ミュファ伯爵はナナに愛想を尽かすが、ナナが天然痘に罹り友達からも見捨てられると、感染の危険も省みずにナナの枕元を見舞うというラスト。
 ナナを演じるジャン・ルノワール夫人のカトリーヌ・エスランが、品性のない娼婦を演じるには適役だが、さほど美人でも魅力的でもないため、男たちを虜にする女には説得力に欠ける。観客を虜にすることもできないが、後半、ダンスホールのカンカン踊りで紳士たちの帽子を次々と落とすパフォーマンスは見どころ。
 因果応報の結末で、半ば予定調和の物語だが、映像的には劇場内部や貴族・女優たちの衣装を中心に、ルノアールらしい美意識が感じられる。 (評価:2)

製作国:アメリカ
日本公開:1926年11月
監督:ジョージ・フィッツモーリス 脚本:フランセス・マリオン、フレッド・デ・グレサック 撮影:ジョージ・バーンズ
キネマ旬報:8位

ベリーダンス、砂漠、R・ヴァレンティノの美貌がすべて
 原題"The Son of the Sheik"で、シークの息子の意。E.M.ハルの同名小説が原作のサイレント映画。『シーク』(1921)の続編。
 サハラ砂漠を舞台に、旅芸人一座の踊り子ヤスミンと族長シークの息子アーメドの恋を描くが、撮影はアリゾナのユマ砂漠で行われた。シークとアーメドを美男子ルドルフ・ヴァレンティノが二役で演じる。
 街頭で踊っていたヤスミン(ヴィルマ・バンキー)に一目惚れして熱を上げたアーメドが、夜ごと一座が野営するテントから舞姫を呼び出し、砂漠の廃墟で密会を重ねるが、それがヤスミンに恋する一座のガーバ(モンタギュー・ラヴ)にバレて、座長でヤスミンの父・アンドレ(ジョージ・フォーセット)らに捕まる。ガーバは身代金を要求する目的で父親の名を明かすようにリンチする。
 口を割らないアーメドに対し、ガーバはヤスミンとの仲を裂くために、ヤスミンが身代金誘拐のための美人局で、これまでに何人もの男を誘惑したと嘘をつく。
 傷ついたアーメドは従者ラマダン(カール・デイン)らに救助されると、復讐のためにヤスミンを誘拐し、アーメドのキャンプに監禁してしまう。可愛さ余って憎さ百倍、豹変したアーメドにヤスミンは恐れをなすが、アーメドが野獣と化して襲い掛かるという暗示的なシーンもある。
 アーメドの父シークは息子の結婚話を進めようとしているが、アーメドがヤスミンを監禁しているのを知り、解放を命じる。ラマダンがヤスミンを一座のテントに送り届けるが、逆にガーバに捕らえられ、ヤスミンが美人局だという話が嘘だったことを知る。
 逃げ出したラマダンはアーメドに真実を告げ、アーメドはヤスミンへの愛のために廃墟に向かい、ガーバと戦って拘束されていたヤスミンを救出。二人が愛を確かめ合うハッピーエンドとなる。
 踊子に扮したヴィルマ・バンキーのベリーダンス姿と、広大な砂漠の映像、ルドルフ・ヴァレンティノの美貌が見どころのすべての恋物語。アーメドとガーバが戦うラストは一転してアクションで見せる。
 座長の娘に手を出しながら、捕まった腹いせに、騙されたから復讐すると言って娘を誘拐するというのも身勝手な話で、芸人を下賤な者たちとする当時の意識が根底に流れる。
 アラビアンナイトのオリエンタルな世界を映像で楽しむためのエンタテイメント作品。 (評価:2)

製作:アメリカ
公開:1927年9月
監督:フレッド・ニブロ 脚本:フレッド・デ・グレサック、オルガ・ブリンツロウ、チャンドラー・スプレーグ 撮影:オリヴァー・マーシュ
キネマ旬報:8位

 原題"Camille"。Raymond Rohauer collectionに不完全プリントが存在(サイレント)