海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──1924年

製作国:アメリカ
日本公開:1925年1月
監督:ラウール・ウォルシュ 技術監督:Robert Fairrarls 脚本:ロッタ・ウッズ 撮影:Richard Holahen、P. H. Whitman、Kenneth Maclean 美術:ウィリアム・キャメロン・メンジース
キネマ旬報:(娯楽的に最も優れた映画)1位

映画好きなら観ておきたいサイレント映画の傑作
 原題は"The Thief of Bagdad"。『バグダッドの盗賊』は複数あるが、これはラオール・ウォルシュが監督したサイレントのオリジナル版。ガラン版『千夜一夜物語』の中の「アーマッド王子と仙女ペリ・バヌ」をベースに盗賊を主人公にした話に作り変えている。
 アカデミー賞の第1回は1929年で、もしアカデミー賞があったら間違いなく選ばれていた。セット・ロケ・特撮を駆使した139分のエンタテイメント超大作。全体はラブ・ロマンスだが、コメディあり、お色気あり、アドベンチャーあり、アクションありで、トーキーにはないサイレントの魅力を発見することができる。淀川長治さんもお気に入りの大傑作。
 物語はバグダッドの姫の婿取りを軸に展開する。主人公の盗賊はどちらかというとケチな盗っ人で、宮殿に忍び込んだ際に美しい姫に恋をする。インド・ペルシャ・蒙古の王子が求婚をするが、姫は七つの海の王子だと偽って婿選びに紛れ込んだ盗賊に恋してしまう。盗賊の嘘はばれるが、姫は最も珍しい宝を持って来た者の求婚を受け入れることにし、それぞれの王子は魔法の絨毯・水晶・リンゴを手に入れる。3つのアイテムはそれぞれ病気になった姫を救うのに役立つが、最後にバグダッドを救うのは盗賊が手に入れた魔法の箱で、二人は結ばれる。『ハリー・ポッター』でお馴染みの天馬や透明マントも出てくる。
 書き始めるときりがないが、バグダッドの猥雑な町の様子、盗みを働くコミカルなシーン、クリーチャーとの戦いの場面、戦闘のモブシーンは必見。蒙古の王子は日本人の上山草人、女スパイは中国人のアンナ・メイ・ウォンが妖艶。盗賊のダグラス・フェアバンクスと姫ジュランヌ・ジョンストンの空飛ぶ絨毯でのランデブー飛行は、ラストの名場面となっている。 (評価:4)

製作国:ドイツ
日本公開:1925年9月
監督:フリッツ・ラング 脚本:テア・フォン・ハルボウ、フリッツ・ラング 撮影:カール・ホフマン、ギュンター・リター
キネマ旬報:(芸術的に最も優れた映画)5位

暴力の応酬と連鎖に哀しいまでの虚しさが伝わってくる
 原題"Die Nibelungen: Kriemhild's Revenge"で、ニーベルンゲン:クリームヒルトの復讐の意。1200年頃の叙事詩"Das Nibelungenlied"(ニーベルンゲンの歌)が原作のサイレント。映画は2部構成の後編で、前編は『ジークフリート』。
 ジークフリートを殺されたクリームヒルト(マルガレーテ・シェーン)が復讐を誓ってフン族の王アッティラ(ルドルフ・クライン・ロッゲ)と結婚。王子が生まれたのを機に兄グンテル(テオドル・ロース)の一行を城に招き宴を張るが、クリームヒルトの意を受けたフン族の兵士が襲撃。騙し討ちにハゲネ(ハンス・アダルベルト・フォン・シュレットウ)がアッティラの王子を斬殺、ブルグントの騎士団は城に立て籠もる。
 以降フン族の城攻めとなるが、夥しい数のフン族による城攻めのシーンがスペクタクル。
 フン族が放った火で城は炎上、引き出されたグンテルとハゲネをクリームヒルトが斬殺。これを見て東ゴート族の騎士ヒルデブラントがクリームヒルトを刺してブルグント族は滅亡、ニーベルングンの宝の呪いは成就する。
 物語を振り返れば、一番悪いのはジークフリートを殺させたブリュンヒルト、二番目はこれを許したグンテル、三番目は下手人のハゲネ、四番目は最初に宝の呪いを招いてしまったジークフリートで、クリームヒルトは夫の復讐をしただけなのに、最後には極悪非道女扱いされて可哀想。
 ハゲネの首を要求するクリームヒルトに、王に忠義を尽くした者は差し出せない、ドイツ魂がわかっていないと言うディートリッヒ(フリッツ・アルベルティ)のドイツ魂の意味も良くわからない。正義よりも為政者のためというのがドイツ魂か?
 本作では、血は血を呼ぶ、復讐は復讐しか、暴力は暴力しか生まないというのが徹底して描かれる。第一次大戦からナチスの台頭に至る世情不安な時代に、ユダヤ人ラングが訴えたかったことなのか。
 今の世界にも通じる暴力の応酬と連鎖を描き、その哀しいまでの虚しさがひしひしと伝わってくる、サイレント、トーキーを超えた傑作。 (評価:4)

製作国:ドイツ
日本公開:1925年3月
監督:フリッツ・ラング 脚本:テア・フォン・ハルボウ、フリッツ・ラング 撮影:カール・ホフマン、ギュンター・リター
キネマ旬報:(芸術的に最も優れた映画)4位

特撮やトリック撮影を使ったメルヘンな冒険譚が楽しい
 原題"Die Nibelungen: Siegfried"で、ニーベルンゲン:ジークフリートの意。1200年頃の叙事詩"Das Nibelungenlied"(ニーベルンゲンの歌)が原作のサイレント。映画は2部構成の前編で、後編は『クリームヒルトの復讐』。
 ネーデルランドの王子ジークフリート(パウル・リヒター)がブルグント国王グンテル(テオドル・ロース)の妹クリームヒルト(マルガレーテ・シェーン)を娶るために首都ヴォルムスに旅立つ物語で、途中ウォルムスの谷で龍を殺し、その血を浴びて無敵に。アルベリッヒの窟でニーベルンゲンの宝と名剣バルムンクを得るが、呪いをかけられる。
 ヴォルムスに着いたジークフリートは、グンテルがアイスランド女王の女丈夫ブリュンヒルト(ハンナ・ラルフ)と結婚できるのを条件にクリームヒルトとの結婚を許される。ジークフリートは旅の途中で得た隠れ蓑でブリュンヒルトを騙して二人を結婚させ、自らもクリームヒルトを得る。ところが女の見栄でクリームヒルトが秘密をばらしてしまい、怒ったブリュンヒルトがグンテルに恥辱を晴らすように要求。グンテルの重臣ハゲネ(ハンス・アダルベルト・フォン・シュレットウ)に騙されたクリームヒルトがジークフリートの弱点を教え、ジークフリートは殺される。ブリュンヒルトも自殺。クリームヒルトが復讐を誓うまで。
 特撮やトリック撮影を使った勇者ジークフリートの冒険ファンタジーが楽しく、とりわけ実物大の龍のパペットとの戦いが見どころ。ジークフリートを死に追いやるクリームヒルトの女の愚かさが哀しい。
 元気が取り柄で人の好いジークフリート、高慢な性悪女のブリュンヒルト、世間知らずのお姫様クリームヒルト、世間知らずのバカ殿様グンテルと性格付けも明確で、サイレントでも退屈せずに楽しめる作品。ミーメを始めニーベルンゲン族のメーキャップと演技、白馬グラニが坂を上り下りする美術セットも良くできている。 (評価:3.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1925年3月
監督:フレッド・ニューメイヤー、サム・テイラー 脚本:サム・テイラー、テッド・ワイルド、ティム・ウェーラン、トーマス・グレイ 撮影:ウォルター・ランディン、 ヘンリー・コーラー
キネマ旬報:(娯楽的に最も優れた映画)5位

その後の映画への影響を見ることのできるアイディアの宝庫
 原題"Girl Shy"で、女の子にシャイ(内気)の意。
 ハロルド(ハロルド・ロイド)は叔父(リチャード・ダニエルス)のテーラーで働く内気な青年で、吃音のためか女の子が苦手。にも拘らず恋愛の指南本"The Secret of Making Love"(恋愛の秘訣)を書いて出版社に売り込むために電車に乗る。そこで乗り合わせたのがバッキンガム令嬢のメアリー(ジョビナ・ラルストン)で、ペット犬の持ち込みを助けたことから互いに好意を持つ。
 メアリーには金持ちの求婚者ロナルド(カールトン・グリフィン)がいて、意に染まぬ結婚を迫られている。一方、恋愛を知らないハロルドの原稿は出版社では物笑いの種。失意のハロルドは偶然再会したメアリーに愛を告白することなく別れ、メアリーはロナルドとの結婚を承諾する。
 ハロルドの原稿がコメディ本"The Boob's Diary"(おっぱい日記)として出版されることになり、契約金でメアリーとの結婚を思い立つが、新聞でロナルドとの挙式のニュースを知る。ところがそれが重婚であることを知ったハロルドは、式場に向かって猪突猛進。メアリーを連れ去って愛を告白するという物語。
 ハロルドがどもって愛を告白できないでいると、メアリーが郵便配達人の笛を吹いてどもりを止めるが、冒頭、叔父が笛を吹いてハロルドのどもりを止めるシーンと対照している。
 ハロルドがメアリーを救出するために車、路面電車、馬車、白バイを駆って式場に猛進するシークエンスが、邦題にもある通りの本作の見せ場。とりわけ路面電車のシーンが命懸けの撮影で、猛スピードの電車の屋根に上がるロイドも凄いが、その電車に轢かれ掛かるスタントの人たちが凄い。
 白バイでマーケットの商品を蹴散らしながら店内を通り抜けるシーン、カーチェイスで追走車を様々なパターンで振り切るシーンは、今のアクション映画にそのアイディアが引き継がれて定番となっている。またハロルドが式場に駆け付け、宣誓寸前に花嫁を奪い取って逃走するラストシーンは、『卒業』(1967)の名シーンを髣髴させる。
 その後の映画への影響を見ることのできるアイディアの宝庫ともいえる作品だが、詰め込み過ぎでストーリーとしてはいささか冗長。ストーリー主体のドラマなのか、ギャグを詰め込んだコメディなのか、どっちつかずな作品になっている。
 カーチェイスの最初で警官に追いかけられるのは、当時禁酒法が施行されていたためで、荷台にあるのは密造酒。 (評価:3)

忍術キートン(キートンの探偵学入門)

製作国:アメリカ
日本公開:1925年7月14日
監督:バスター・キートン 製作:ジョセフ・M・シェンク 脚本:クライド・ブラックマン、ジョン・ハヴェズ、ジョゼフ・ミッチェル 撮影:エルジン・レスリー

忍術ならぬキートンのトリック撮影が秀逸な好編
 原題"Sherlock Jr."。
 ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』にオマージュされたサイレント映画で、女性が主人公で映画の主人公がスクリーンの外に出てくる『カイロの紫のバラ』とは反対に、キートンがスクリーンの中に入っていく。
 前半は映写技師のキートンが腕時計泥棒の犯人にされ、犯人探しも上手くいかず、逆に心配したキートンの想い人(キャスリン・マクガイア)が真実を突き止める。
 一方、それを知らない失意のキートンは映写中に居眠りをしまい、上映中の映画"Hearts & Pearls"(真心と真珠)のスクリーンの中に入っていく夢を見る。その映画の中で令嬢の真珠のネックレスが盗まれ、キートンがシャーロックjr.に扮して事件を解決する。
 この映画の中でのトリック撮影が秀逸で、公開時の邦題の由来となっている。スタント、アクションシーンも楽しく、キートンの周到な撮影技術と演出が楽しめる。
 スクリーンの中で見事事件を解決するが、途中で目が覚めてしまい、映写室に真実を知ったマクガイアがやってくる。するとスクリーンではシャーロックjr.と令嬢が結ばれてキスと抱擁を交わすシーンで、それを見ながら真似をするキートンの表情が可笑しい。 (評価:3)

製作国:アメリカ
日本公開:1925年5月
監督:ハリー・ボーモント 脚本:ドロシー・ファーナム 撮影:デヴィッド・エイベル
キネマ旬報:(芸術的に最も優れた映画)8位

半透明の霊体となった恋人同士の特撮合成がロマンチック
 原題"Beau Brummell"で、しゃれ男ブラムメルの意。17〜18世紀のメンズ・ファッションの権威ジョージ・ブライアン・ブランメルの異名。クライド・フィッチの同名戯曲が原作。
 ブランメルの生涯をベースに伝記風に描くラブストーリーで、恋人マーガリー(メアリー・アスター)を政略結婚からアルバンリー卿に奪われ、その復讐のためにしゃれ男となって、後にジョージ4世となる摂政皇太子ジョージ・オーガスタス・フレデリック(ウィラード・ルイス)の寵臣となり、貴族夫人たちを誘惑する。
 ところが皇太子の義理の妹、ヨーク公爵夫人にまで手を出したために皇太子の不興を買い、マーガリーの取りなしでフランス大使に任命されるが、これを断ったために、債権者たちに訴追されることになり、執事と共にカレーに逃げる。
 昔日の威光も失せ落ちぶれていくが、夫と死別したマーガリーの結婚の申し出に、人生にも愛にも疲れたと言って拒絶。老いさらばえ、ジョージ4世の死とマーガリーの重篤を知るも、失意のうちに息絶える。
 ラストはマーガリーの魂がブランメルの死の床を訪れ、共に幽体となった二人が漸く結ばれるというロマンチックなシーンとなるが、半透明の幽体との特撮合成が見どころ。
 ブランメルにぴったりのしゃれ男にジョン・バリモア。清純な恋人役のメアリー・アスターも嵌っているが、サイレントなので歴史背景を含めて説明不足でわかりづらく、ファッション・リーダーとしてのブランメルの描写が足りないのも歴史物としては物足りない。 (評価:2.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1924年10月
監督:エルンスト・ルビッチ 脚本:パウル・バーン 撮影:チャールズ・J・バン・エーガー
キネマ旬報:(芸術的に最も優れた映画)2位

浮気騒動のサイレント映画の見所はモダンな撮影手法
 原題は"The Marriage Circle"で「結婚の輪」の意。本作には2組の夫婦が登場して、スッタモンダの浮気騒動を繰り広げる。原作はロタール・シュミットの戯曲"Only a Dream"(ただの夢)。
 舞台はウィーン。不仲なストック教授の妻ミッツィは、仲睦まじい親友シャーロットの夫のブラウン医師を誘惑しようとする。それを目撃したストック教授は探偵に頼んで妻の浮気の証拠を手に入れ離婚しようとする。一方、ブラウンの友人ミューラーはシャーロットに思いを寄せているという、結婚の輪が繋ぐ浮気な男女の恋愛模様。
 これをサイレントで描いているが、ストーリーを理解するには集中力と観察力が必要で、映画そのものは大した内容ではない。ただ、トーキーに継承されるのドラマ作りの基礎という点では、撮影・演出・編集の技法にモダニズムの片鱗を見ることができる。とりわけ舞台的演出が多い当時の映画の中で、ロングショットや俯瞰、移動などを使った撮影技法に先進性がある。
 ただ映画好きやサイレントファン以外には、正直観てもそれほど面白くはない。 (評価:2.5)

製作国:ドイツ
日本公開:1926年1月
監督:F・W・ムルナウ 脚本:カール・マイヤー 撮影:カール・フロイント
キネマ旬報:2位

蛇足の付け足しはちょっと悲しすぎるハッピーエンド
 原題"Der Letzte Mann"で、邦題の意。
 中間字幕が入らないという映像だけで表現したサイレント映画。
 主演のエミール・ヤニングスの演技と、ムルナウの演出のみでストーリーが追える上に、緊張感もあってまったく退屈しない。
 主人公はホテルのポーター(エミール・ヤニングス)で、送迎と荷物運びだけでなく立派な制服に身を包むホテルの顔としての玄関番。その誇りを制服に包んでいるが、老齢から雨の日に大荷物を運んでぐったりしているところを支配人に見つかり、トイレのボーイへの配置換えを言い渡される。
 この場面は、渡した辞令の文面で説明されるが、これ以外に文字による説明はなく、ラストシーンの後、蛇足気味の付け足しエピソードへの説明に字幕が入る。
 仕事が終わって、こっそりポーターの制服を引き出した男は、制服を着て娘の結婚式に出席、面目を保つ。制服を着て家を出るが途中で着替えてトイレ係の服に着替え、帰宅時にまたポーターの制服に着替えるという毎日で、近所の世間体を保つ。
 ところがホテルの前に来た近所の中年女が玄関番にいないのを不思議に思い、ホテルの中を訪ねてトイレ係をしている男を発見したものだから噂はアパート中に広まり、近所の笑い者になった男はホテルの椅子に蹲って失意したところで終わりとなる。
 これでは男が可哀想だと字幕が入り、大金持ちがトイレで倒れ、それを看取った主人公に莫大な遺産が入ったというハッピーエンドのエピソードが付け足される。
 蛇足のラストシーンはレストランで成金丸出し食事をし、貧しい友人に豪勢な食事を施し、ホームレスを馬車に収容してホテルを後にするというもので、これが貧しい者にとってのハッピーエンドだというのでは、ちょっと悲しすぎる。 (評価:2.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1925年11月
監督:ハーバート・ブレノン 脚本:ウィリス・ゴールドベック 撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
キネマ旬報:(娯楽的に最も優れた映画)3位

舞台的演出の原作に忠実なファンタジックな作品
 原題"Peter Pan"。ジェームス・マシュー・バリーの戯曲"Peter Pan; or, the Boy Who Wouldn't Grow Up"が原作のサイレント映画。
 原作にほぼ忠実だが、ピーターがダーリング家を去るところで終わり、哀しい結末は描かれていない。全体には子供向けに作られていて、ダーリング家の愛犬ナナが着ぐるみで、犬らしい動作が可愛い。ピーターが落としていった影はストッキング状のレーヨン(?)というのも可笑しい。
 ティンカーベルの合成やライオン、人魚、海賊船などの特撮も頑張っていて、ファンタジックな作品に仕上がっている。
 ピーターを演じるベティ・ブロンソンは当時17歳の美少女で、大人にならないノンセクシュアルな少年を表情豊かに演じている。とりわけ、ピーターの代わりに毒を飲んで死んでしまったティンカーベルのために、観客に妖精の存在を信じれば生き返るかもしれないと手を叩くように呼び掛けるシーンの演技がいい。
 ダーリング夫人を演じるエスター・ラルストンが美人。タイガーリリーのアンナ・メイ・ウォンは一瞬しか出て来ないが中国系。
 ウェンディ(メアリー・ブライアン)がピーターに恋するも、お母さんとしか思っていないことを知り落胆するシーンもあり、舞台的な演出を含めて、原作に沿った大人になることを望まないピーターが描かれている。 (評価:2.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1925年8月
監督:フランク・ロイド 脚本:ラファエル・サバティーニ
キネマ旬報:(娯楽的に最も優れた映画)9位

海のシーンが見どころの地中海を舞台にした海賊モノ
 原題"The Sea Hawk"で、海の鷹の意。ラファエル・サバチニの同名小説が原作のサイレント映画。
 16世紀末のイングランド、地中海が舞台の海賊モノで、コーンウォールに住む女主人ロザムンド(エニッド・ベネット)と婚約中のオリバー卿(ミルトン・シルス)が主人公。
 オリバーが、異母弟ライオネル(ロイド・ヒューズ)がロザムンドの弟ピーター(ウォレス・マクドナルド)を殺したのを庇ったことから、逆にピーター殺しの罪を着せられ、発覚を恐れたライオネルに謀られて船乗り達に誘拐され、さらにスペイン船に捕まってガレー船の奴隷となり、ムーア人奴隷ユスフと親しくなる。
 スペイン船にはナポリ巡礼の王女が乗っていて、オリバーは同じキリスト教徒の自分を虐待することに腹を立ててイスラム教に改宗。地中海のメノルカ島でムーア人の海賊に解放され、ユスフの叔父が首領だったことから、サクル・エルバハリ(英語でシー・ホーク)と名を変え、ムーア人の海賊として名を馳せるというもの。
 それでは話が終わらないので、以後は復讐譚となり、ライオネルがロザムンドと結婚することを知って結婚式を襲撃。二人を誘拐するが、ロザムンドにユスフの叔父が目を付けたことから、ロザムンドをイングランドに送り返すことを決意。ユスフの叔父と海賊船上で一触即発となるが、近くにイギリス海軍の船を見つけてロザムンドを救出させ、自らは犯罪者として捕まる。
 絞首刑直前、真相が明らかとなり、ロザムンドを助けたことでオリバーは赦免され、コーンウォールで二人幸せに暮らしたというハッピーエンドだが、オリバーがイスラム教徒のままかは不明。
 サイレント映画の2時間は長いが、アクションシーンを中心に飽きさせないシナリオと演出で楽しめる。
 撮影のためのガレー船を建造し、合成を含めた海のシーンが見どころ。 (評価:2.5)

海底王キートン

製作国:アメリカ
日本公開:1925年11月8日
監督:バスター・キートン、ドナルド・クリスプ 製作:バスター・キートン 脚本:ジャン・ハヴェズ、ジョセフ・A・ミッチェル、クライド・ブラックマン

潜水服のキートンが『ツァラトゥストラ』と共に海から現れるシーンが傑作
 原題"The Navigator"で、船の名前。
 キートンがキャスリン・マクガイアと二人ぽっちで客船に乗り、大海原を漂流するというサイレント映画。
 発端はキートンとマクガイアがスパイの謀略に巻き込まれ、気がつくと船が離岸していたというもので、キートンは世間知らずの大富豪の御曹司、マクガイアも海運王の令嬢で、操船はもちろん、したことのない料理で二人がてんやわんやする航海が始まるというもの。
 最初は互いに相手に気づかず、誰かいると探し回るが擦れ違いばかりで船を駆けまわるのが可笑しい。
 やがて二人は自活にも慣れるが、今度は南海の人食い族が住む島の近くで座礁してしまい、キートンが潜水服で海底に潜るというのが邦題の由来。
 ところが人食い族が大挙カヌーで襲ってきて、マクガイアを連れ去り、そこに潜水服のキートンがリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』の曲をバックに海から現れるシーンが傑作。その異様な姿に人食い族も恐れをなして退散。
 マクガイアを助けて船に戻るものの再び人食い族との戦い。救命艇で逃げ出すが沈み出し、そこに海軍の潜水艦が現れて救助されるというオチ。
 スラップスティック・コメディが楽しめるが、それ以上の見どころもない。 (評価:2)