手作りジャムの研究

ジャムについてどこまで知っていますか? ジャムについてのあれこれです。

1.ジャムとは?
2.ジャムの歴史
3.ジャムの科学
4.ジャムと薬との相互作用



果皮を使ったマーマレード(甘夏)

 果実に砂糖を加えて煮詰めた保存食品のことで、フランス語ではコンフィチュールともいいます。材料の多くはイチゴ・リンゴ・ミカン・ブドウ・アンズ・ベリー類ですが、トマトなどの野菜や薔薇の花びらから作られるジャムもあります。
 ジャムには果汁から作られたり、煮崩れて液体状になったものもありますが、果肉を残したものはプレザーブと呼ばれています。
 また、柑橘類から作るられるもので果皮(ピール)が含まれているものはマーマレードと呼ばれ、一般的なジャムとは区別することも多いようです。

ジャム 【jam】(デジタル大辞泉)

果実に砂糖を加えて煮詰めた保存食品。多く、イチゴ・リンゴ・ミカン・ブドウ・アンズ・木イチゴ類などを用いる。コンフィチュール。

ジャム 【jam】(世界大百科事典 第2版)

果実あるいは果肉に砂糖を加えて適当な濃度にまで煮つめたもの。〈押しつぶす〉の意の同形の動詞に由来する語と考えられている。パンにぬったり、ケーキ、ペーストリー、タルト、クレープなどに風味づけと彩り、飾りを兼ねて用いられる。果実や果肉は原形を保たなくてもよく、ふつうは煮くずれて混濁している。ゼリー状になるのは、果実中のペクチンと酸に砂糖が作用することによるもので、糖度は65%内外である。果実や果肉の形が残っているものはプレザーブpreserveという。

 果汁から作ったジャムとフルーツゼリーの区別が明快ではないように、市販のジャムを定義する日本農林規格(JAS)では、狭義のジャム、マーマレード、ゼリーを併せてジャム類としています。
 JASのジャム類の定義は、「果実、野菜または花弁を砂糖類、糖アルコールまたは蜂蜜とともにゼリー化するようになるまで加熱したもの」または「これに酒類、柑橘類の果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたもの」となっています。

(ジャム類の日本農林規格)
ジャム類

次に掲げるものをいう。
1 果実、野菜又は花弁(以下「果実等」と総称する。)を砂糖類、糖アルコール又ははちみつとともにゼリー化するようになるまで加熱したもの
2 1に酒類、かんきつ類の果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたもの

ジャム

ジャム類のうち、マーマレード及びゼリー以外のものをいう。

マーマレード

ジャム類のうち、かんきつ類の果実を原料としたもので、かんきつ類の果皮が認められるものをいう。

ゼリー

ジャム類のうち、果実等の搾汁を原料としたものをいう。

プレザーブスタイル

ジャムのうち、ベリー類(いちごを除く。)の果実を原料とするものにあつては全形の果実、いちごの果実を原料とするものにあつては全形又は2つ割りの果実、ベリー類以外の果実等を原料とするものにあつては5mm以上の厚さの果肉等の片を原料とし、その原形を保持するようにしたものをいう。



プレザーブスタイル(ブルーベリー)

 ホームメイドの手作りジャムには、JAS規格は関係ありませんが、市販のジャムが品質・添加物についてどのような規制を受けているかは知っておいた方がよいでしょう。それが手作りジャムを作る意義にも繋がります。
 JASでは果実等含有率というのが決められていて、全体に占める使用した果汁を含む果実の割合をいいます。ジャムでは45%、マーマレードでは30%以上を特級品、それぞれ30%、20%以上を標準品と定めています。
 また、使用が認められている原材料・食品添加物には、下記のものがあります。

(ジャム類の日本農林規格)
果実等含有率

原料として使用した果実等(マーマレードにおいて、使用した果皮の果実全体に対する割合が通常の果実が有する果皮の割合を超える場合にあつては、その超える部分に相当する果皮を除く。)及びその搾汁の重量の製品の重量に対する割合をいう。
特級
1 ジャムにあつては、45%以上であること。
2 マーマレードにあつては、30%以上であること。
標準
1 ジャムにあつては、33%以上であること。
2 マーマレードにあつては、20%以上であること。

食品添加物以外の原材料

次に掲げるもの以外のものを使用していないこと。
1 果実等
2 砂糖類
3 糖アルコール
4 はちみつ
5 酒類
6 かんきつ類の果汁(含有率が4 %以下である場合に限る。)

食品添加物

次に掲げるもの以外のものを使用していないこと。
1 酸味料
クエン酸、DL-酒石酸、L-酒石酸及びDL-リンゴ酸
2 pH調整剤(かんきつ類、すもも、うめ、あんず、ブラックカラント、レッドカラント、クランベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、ラズベリー及びパッションフルーツを原料とするものに使用する場合に限る。)
クエン酸三ナトリウム
3 酸化防止剤(にんじん、アロエ、かぼちや、メロン、かんきつ類、りんご、なし、びわ、まるめろ、もも、うめ、あんず、くり、パインアップル、バナナ、パパイヤ及びマンゴーを原料とするものに使用する場合に限る。)
L-アスコルビン酸
4 ゲル化剤
ペクチン
5 香料(マーマレードに使用する場合であり、かつ、原料果実等と同一種類の果実等から抽出したものに限る。)
*標準は、5 香料(原料果実等と同一種類の果実等から抽出したものに限る。)



ノストラダムス

 『化粧品とジャム論』

 日本ジャム工業会のホームページによれば、ジャムの起源は1万年以上昔の旧石器時代後期に遡り、果実を土器で煮た跡が発見されています。人類最古の保存食品で、果物を蜂蜜で煮たと考えられています。
 有史になると、紀元前320年頃、アレクサンダー大王がインド遠征で砂糖を持ち帰り、ヨーロッパでジャム作りが始まりました。王侯貴族に珍重されるようになりましたが、一般に普及するのは十字軍遠征からとされます。
 果物・砂糖は栄養があって健康に良いもので、ジャムを健康食品と考えたのは、16世紀のフランスの医師ノストラダムスでした。
 ノストラダムスは、20世紀の終わりに流行った「1999年の7つの月、恐怖の大王が空より来らん」の『大予言』で有名ですが、『化粧品とジャム論』を出版していて、この中でジャムや菓子の作り方を説明しています。
 書名の『化粧品とジャム論』は通称で、初版は『若干の魅力的な処方についての知識を得たいと思う全ての人々にとって優良かつ大変有益な二部構成の小論集』というタイトルでした。この 本の中では、砂糖煮、ゼリー、プリザーブという言葉が使われています。
 食材にはレモン、ダイダイ、ビター・チェリー、生姜、マルメロ、ライム、洋梨などが使われ、ビター・チェリーの砂糖煮は鎮痛剤・活力剤になると書かれてます。ビター・チェリーはスミノミザクラのことです。


(1)ゲル化


ゲル化剤にゼラチンを使ったゼリー
 ジャムがゼリー化する状態をゲル化といいます。ゲル(gel)はドイツ語で、英語ではジェルです。
 微粒子が液体・気体・固体などの媒体中に分散している状態をコロイドいいますが、身近なものでは牛乳・バター・クリームなどの脂肪が分散した乳製品、煙や霧などの気体中での分散もコロイドです。
 微粒子が液体に分散したものをコロイド溶液といい、これが固まって半固体ないしは固体になったものがゲルです。ゲル化したものの代表的なものに、こんにゃく・豆腐・ゆで卵、そしてゼリーがあります。
 液体をゲル化させるものをゲル化剤といい、食品に使われるものにゼラチン・寒天・ペクチンがあります。

(2)ペクチン


酸性を強めるために使われるレモン果汁

ペクチンの多い梅ジャム
 ジャムをゲル化させるのは、果物中に含まれているペクチンです。
 ペクチンは植物の細胞壁に含まれる多糖類で、葉や茎・果実に多く含まれています。熱を加えると水に溶け出しますが、酸度と糖度が関係するため、砂糖や酸が必要になります。
 ペクチンがゲル化する条件は、pH(水素イオン指数)2.7~3.5、糖度55~80%です。
 おおよそバナナがpH5、リンゴpH3、グレープフルーツpH3、レモンpH2というように酸性が強くなりますが、ジャム作りでゲル化条件pH3.5以下にするためにレモン果汁を使うのは、レモンのpHがゲル化に大きく役立つためです。
 ゲル化のもう一つの条件となる糖度は、果物ではおおむね20%以下です。ある測定調査では、ドリアン・バナナ・アケビの糖度が20%を超え、サクランボ・マンゴー・ブドウ・柿・リンゴ・梨・パイナップル・プルーン・キウイフルーツが10%台、柑橘類も10%前後となっています。10%以下は、グアバ・ラズベリー・アンズ・イチゴ・パパイヤ・桃などです。
 このため、糖度を50%程度に高めるために砂糖を加える必要があります。
 ゲル化に関係する三つめは、果物のペクチン含有量です。ただ、一口に含有量とはいっても、果実の成熟段階によって分子構造が変化するためにゲル化する能力が異なります。また、果実全体でジャムに使える部分とそうでない部分があるため、加食部分でのペクチン含有量に関係することになります。
 プラム・梅・ブドウ・リンゴ・イチジク・パインアップル・柑橘類などのペクチン含有量が高くなっていますが、他の二条件(酸・糖度)によってもゲル化は変わってきます。  また、ゲル化しにくい場合には、市販されている工業ペクチンを添加して粘度を高めるのも一つの方策です。

(3)低糖ジャム


工業ペクチン(HMタイプ)
 最近は、市販品で低糖ないしは無糖ジャムを見かけます。
 市販品では通常、リンゴなどのペクチンを抽出して加工した工業ペクチンを使用します。天然のペクチンでは多数のメトキシル基が結合した構造を持っていますが、このメトキシル基を大量に除去したものを低メトキシル・ペクチン(Low Methoxyl Pectin)、そうでないものを高メトキシル・ペクチン(High Methoxyl Pectin)と呼んでいます。
 高メトキシル・ペクチンは(2)で説明したpH2.7~3.5、糖度55~80%をゲル化条件としていますが、低メトキシル・ペクチンはpH3.2~6.8とカルシウムなどの二価金属イオンを条件とし、糖度はゲル化に関係しません。このため、牛乳を使用するデザートや甘味や酸味を抑えたデザート、フルーツソースなどに使われます。
 一般的な果物にはカルシウムが十分含まれているため、低メトキシル・ペクチンを使えば低糖ないしは無糖でもゲル化したジャムが作れます。しかし、梨やブドウなどではカルシウムが十分でないため、ジャムでは高メトキシル・ペクチンを使う必要があります。
 また、砂糖にはジャムの腐敗や変質を防ぎ、保存性を高める効果があります。保存料を使用しない手作りの低糖・無糖ジャムは、保存には適していません。
 高メトキシル・ペクチンも低メトキシル・ペクチンも製菓材料やジャム用に市販されています。それぞれ、HMタイプ、LMタイプのペクチンと表示されています。



薬との相互作用のあるグレープフルーツ

 食べ物の中には、薬に作用して効果を弱めてしまったり、逆に必要以上に効果を増幅してしまい、危険な副作用をもたらすものがあります。
 例えば納豆に含まれるビタミンKは、血栓予防に服用される抗血液凝固剤ワルファリンの効果を阻害し、薬の効果を弱めてしまいます。薬に副作用する食品には、牛乳(カルシウム)、チーズ(チラミン)、クロレラ(ビタミンK)、カフェイン、アルコールなどがありますが、果物のグレープフルーツに含まれるフラノクマリン類も、カルシウム拮抗薬・高脂血症治療薬・催眠鎮痛薬・精神神経薬に副作用を起こすことがわかっています。
 グレープフルーツはブンタン(文旦)とオレンジの交配種で、副作用の原因物質であるフラノクマリン類はブンタン系の果物に含まれていることから、薬と併せての摂取には注意が必要です。
 ブンタン(文旦)は、ザボン・ボンタン・ポメロとも呼ばれています。
 また、ブンタンとの交配種、系統種には、グレープフルーツのほか、スウィーティー(オロブランコ)、オランジェロ、晩白柚、河内晩柑(美生柑、宇和ゴールド、灘オレンジ、愛南ゴールド、ハーブ柑、天草晩柑、ジューシーフルーツ、ジューシーオレンジ、サウスオレンジ、灘オレンジ)、安政柑、大橘(パール柑、サワーポメロ)、紅まどか、ダイダイ(サワーオレンジ)、カワノナツダイダイ(甘夏)、ナツミカン、カクテルフルーツ、キヌカワ、ハッサク、タンジェリン、ベルガモット、メロゴールドなどがあります。
 グレープフルーツ類との相互作用が指摘される薬を服用している場合は、ブンタン系の果物で作られたジャムには注意が必要です。
 服用している薬と食品との相互作用については、薬剤師に相談してください。

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