手作りジャムの研究

ジャム作りに知っておいた方が便利なノウハウと知識です。

1. 輸入柑橘類の防かび剤除去
2. 柑橘類の苦味の対処法
3. ペクチンの抽出法・使用法
4. 砂糖の種類
5. 果物の灰汁(アク)
6. ジャムのガラス瓶充填法
7. リンゴ等の皮からの色つけ
8. 砂糖、レモン果汁、ペクチン、アルコール類の投入時期
9. 火加減



ノンケミカルのグレープフルーツ

 輸入柑橘類では、輸送中のかびの発生や増殖を防ぐためにイマザリル、チアベンダゾール(TBZ)、オルトフェニルフェノール(OPP)などの殺菌剤・防かび剤が使用されています。このような収穫後の農産物に使用する薬剤をポストハーベスト農薬と呼んでいますが、日本国内の農産物への使用は禁止されています。
 ポストハーベスト農薬には、発癌性や催奇形性など人体へ影響があり、残留農薬の危険性を指摘する意見もあります。
 一方、輸入農産物は食品衛生法によって厳しい安全基準が設けられ、検査もされているので健康被害はないという意見もあります。この検査は皮を含めて行われるため、皮を食べても安全だということになります。
 どちらの意見をとるにしても、残留農薬は少ないに越したことはありません。最近は防かび剤を使用していないノンケミカル表示の輸入柑橘類も売られていますが、どこでも手に入るわけでもありません。
 ここでは、2010年頃に埼玉県消費生活支援センターが行った実験結果を紹介します。

①流水中でこすり洗いをする。(防かび剤を、約30%~70%除去できる)
②15分間煮沸して茹でこぼす。(防かび剤を、約58%~86%除去できる)
③もう一度②を繰り返す。(防かび剤を、約82%~96%除去できる)

 この結果によれば、15分間の煮沸と茹でこぼしを2回繰り返せば、80~90%の残留農薬を除去できます。しかし、完全に除去できるわけではありませんので、それでも心配ならば果皮を使わないでジャムにするか、ノンケミカルの柑橘類でマーマレードを作ることをお勧めします。


まるのまま茹でこぼす方法(A)

皮を剥いてから茹でこぼす方法(B)

 なお、茹でこぼしの方法として、A.まるのまま茹でこぼすか、B.皮を剥いてから茹でこぼすか、の2通りがあります。まるのままの方が、湯の中に溶けだした薬剤の果皮の中への浸潤が少ないかもしれません。あるいは剥いた皮を茹でこぼしても大差はなく、その方がまるのままに比べて果肉への浸潤を防げるかもしれません。
 ただ、まるのまま茹でこぼした場合、果実全体が柔らかくなります。輪切りオレンジ・マーマレードはこの状態でスライスしますが、グレープフルーツ・マーマレードの場合は皮を剥いてから茹でこぼした方が調理しやすいかもしれません。


 柑橘類にはナリンギン、リモノイドなどの苦味物質が含まれています。グレープフルーツなど、柑橘類のジュースに独特の苦味があるのはこのためです。
 苦味物質は果皮近くに多く含まれ、果皮を使うマーマレードでは苦味が強すぎると食べにくくなります。このため、マーマレード作りではある程度、苦味を抜いたほうが食べやすくなります。
 果皮からのナリンギン除去について、女子栄養大学が夏みかんで行った実験結果があります。

①外果皮は2~3時問水晒しすることにより80~85%のナリンギンが除去され、3時間以後はほぼ一定となる。
②内白部、ひょうのうは2~3時間の水晒しで60~70%のナリンギンが除去され、3時間以後はほぼ一定となる。
③外果皮を2%食塩水で30分湯煮後に1時問水晒しするか、45~60分湯煮し水晒しを行なわなくても、従来の苦味処理を長時間行なった市販のマーマレード製品と変らないものができる。
(従来の苦味処理は、外果皮を30~60分湯煮後に13時間水晒しする。)

水に晒している果皮

 この実験結果からわかることは、マーマレードに使う果皮(ピール)から苦味処理をする方法には、3つの方法があることです。なお、この実験では果皮は2ミリ幅に細断されています。
A.千切りにした果皮を水に2~3時間漬ける。
B.千切りにした果皮を2%食塩水の湯で30分煮て、そのあと水に1時間漬ける。
C.千切りにした果皮を湯で45~60分煮る。
 ただ、市販のマーマレードでは、千切りにした果皮を湯で30~60分煮て、そのあと水に13時間漬けると書かれています。
 実験では、できた果皮(ピール)に違いはないという結論ですが、それぞれの方法で実際に試してみて、風味や味、調理時間を総合的に考慮して一番よいと思う方法を選んでください。
 ナリンギン、リモノイドなどの苦味物質は柑橘類の種類によって含まれる量が異なります。ナリンギンの多いものにはグレープフルーツ、夏みかん、八朔などがありますが、柚子などはそれほどではありません。この違いは果皮を齧ってみるとわかります。
 グレープフルーツや夏みかんでは、果皮を齧るといつまでも舌に痺れが残りますが、柚子ではそれほど痺れは残りません。
 柚子のようにそれほど苦くない柑橘類で、風味をできるだけ残すには、上記の時間を短くします。
 マーマレードの苦味を好む人もいますので、好みに合わせて調整してください。


 果物にはジャムにする果肉やピールにする果皮などの可食部分以外にも、ジャムのゲル化や粘り気に必要なペクチンが含まれています。
 そのため柑橘類などの種やパルプ(白い綿や薄皮など)からペクチンを抽出して、ゲル化剤としてジャムに加えることは可能です。
 ただ、こうして取り出したペクチンには苦味や渋味などの雑味が含まれていることが多く、せっかく手作りしたジャムの風味や味を損なってしまいます。
 ジャムの食品添加剤として市販されている工業ペクチンは、リンゴの芯などから抽出したペクチンを化学的に処理しているために無味無臭です。手作りジャムの粘り気を出すためなら、基本的に市販の工業ペクチンを使うことをお勧めします。

<ペクチンの抽出法>

 ペクチンの抽出法として、柑橘類などの種をお茶パックに入れて直接ジャムの鍋に入れ、ペクチンを煮出してからお茶パックを引き揚げる方法が良く紹介されています。
 しかし、この方法では、苦味や渋味などが出て味を損なっていることに気付いた場合、取り返しがつきません。苦味や渋味をあとから修復することは不可能です。
 そのためには、種やパルプを直接ジャムの鍋に入れるのではなく、別に水を入れた鍋を用意してペクチンを煮出すようにします。
 網じゃくしで、種やパルプを取り除いた液を舐めてみてください。この時に、苦味や渋味が気にならないようなら、ジャムの鍋に加えます。もし気になるようなら、液は捨ててしまいましょう。

<ペクチンの使用法>

 ペクチンの性質については、「ジャムの科学」で説明していますが、ジャムをゼリー化させたり粘度を高めたりするには、ペクチンだけでなく、酸度と糖度が高くなければなりません。
 そのためにレモン汁と砂糖を加えますが、レモン汁を入れすぎると酸っぱくなってしまいます。同様に砂糖を入れすぎてもいけません。
 工業ペクチンで粘度を調整する場合でも、ペクチンと酸・糖分は相互に関係するので、ペクチンだけ増量しても固まるわけではありません。
 酸味、甘味、粘度は好みに合わせて調整します。
 また、ペクチンは酸性下で加熱すると熱で加水分解するので、ジャムへの投入時期はなるべく遅くします。


 ジャムに加える砂糖には、一般的にグラニュー糖と上白糖がありますが、水飴、ブドウ糖の澱粉由来の糖や、目的に応じて糖アルコール、還元水飴、各種オリゴ糖なども使われています。
 砂糖はグラニュー糖、上白糖以外にも三温糖、黒砂糖などがあり、どれを使っても構いませんが、それぞれに特徴があります。(参考:農畜産業振興機構)

①上白糖 結晶が細かく、しっとりとしたソフトな風味で、白砂糖とも呼ばれる。
②グラニュー糖 癖のない淡泊な甘さを持つので、香りを楽しむコーヒーや紅茶に適し、菓子や料理用にも広く使われる。
③白双糖 無色透明。高級な菓子や飲料に多く使われる。
④三温糖 黄褐色。特有の風味を持っていて、甘さも強い。煮物や佃煮などに使うと、強い甘さとコクがでる。
⑤中双糖 黄褐色。表面にカラメルをかけているので独特の風味を持ち、煮物などに使われる。
⑥黒砂糖 さとうきびの搾り汁をそのまま煮詰めて砂糖にしたもの。濃厚な甘さと強い風味がある。

 双糖(ざらとう)は、ザラメのことです。
 上白糖はグラニュー糖に比べて甘味とコクがあります。一方、グラニュー糖はすっきりした甘さで色もきれいに仕上がるといわれます。ジャムに求める甘さの質やコク、色合いも好みが分かれますので、それぞれの砂糖の特徴を考慮して、自分に合ったジャムを作ることをお勧めします。



灰汁が多い場合は取り除く

 材料の果物だけでなく砂糖からも灰汁が出るので、一般的には灰汁は取り除かないと雑味の原因になります。
 とくにイチゴのように灰汁の多く出る果物では、瓶に詰めた際に白い泡のようなものが残ってしまうので丁寧に取り除く必要があります。
 果物によっては灰汁がそれほど気にならないものもあります。煮詰めていく過程でたいていの灰汁は鍋の縁に凝固していくので、それほど気にする必要はないかもしれません。
 ただ、すっきりした透明感のある味わいのジャムを作りたい場合には、網じゃくしで灰汁を丁寧に取り除いてください。



ジャムは瓶の縁近くまで充填

 ジャムを入れる前に、ガラス瓶と蓋は熱湯消毒します。
 ジャムは鍋の火を止めたばかりの十分に熱い状態で瓶に詰めます。この時、ジャムをなるべく瓶の縁に近いところまで充填すると、蓋を閉めた際にジャムとの間の空間が少なくなり、蒸気によって殺菌されます。
 瓶の口についたジャムは拭き取ってください。そのまま蓋をすると密閉性が悪くなり、細菌が繁殖する原因になります。
 充填後は蓋を軽く締め、少し揺らして空気を暖めます。次に蓋を緩めると、シュッと音がして空気が出されますので、手早く締め直します。これにより、ジャムの酸化を防ぎ、保存性を高めることができます。
 瓶のジャムの量が少ないと瓶内の空気が蒸気に置き換わらず、殺菌が不十分になるので注意してください。
 市販のジャムでは、ジャムを充填した瓶を蓋まで浸かるように湯槽に並べ、80℃で30分殺菌します。
 手作りジャムで同じように念入りに殺菌する場合は、いきなり冷水に入れると瓶が割れるので、ゆっくりと温度を下げてから貯蔵します。

<ジャムの保存法>

 できるだけ冷蔵庫に保管します。保存期間は数か月から1年程度ですが、風味が落ちてくるので製造後はなるべく早く食べることをお勧めします。
 開封後は必ず冷蔵庫に入れ、3週間を目安に食べきるようにします。



小鍋に果皮を入れて煮る方法

煮出してできる果物の色水

お茶パックに果皮を入れる方法

お茶パック

 リンゴや桃などは果肉が白いので、ジャムにした場合に色味が物足りなく感じます。
 こうした時には、果皮から色水を作って鍋に足すと、ほのかにピンク色をしたジャムになります。味に変わりはありませんが、目で楽しむことができます。
 お茶パックを使って果皮を直接ジャムの鍋に入れ、色が出たところで引き上げる方法もありますが、小鍋に果皮と水を入れて煮出し、色素を抽出する方法が一番確実です。
 色が十分出たら、網じゃくしで果皮を掬って色水だけをジャムの鍋に投入します。網じゃくしを使わずに、あらかじめ果皮をお茶パックに入れておく方法もあります。


 ジャム作りでは、砂糖やレモン果汁、あるいはペクチンやアルコール類、シナモン、バニラエッセンスといった香料、水などを添加物に使います。
 これらをジャムに投入するタイミングはケース・バイ・ケースですが、一般的には次のように入れます。

<砂糖>


砂糖をまぶす
 

浸み出した果汁
 ジャムの材料を鍋に入れ、次に一定量の砂糖を加えてまぶします。ジャムの材料からは水分が浸み出してきますが、それに砂糖が溶けることで果汁の濃度が上がり、浸透圧の原理によって材料内の水分がさらに浸み出すのを促進します。
 砂糖をまぶした材料を1~2時間そのままにしておくと、かなりの水分が浸み出します。鍋を火にかけると、この水分が加熱されて材料を効率的に煮ることになります。
 砂糖は最初に多く与えておいた方が浸透圧の差が大きくなり、水分の浸み出しが早くなりますが、果実の形を残したプレザーブスタイルのジャムにする場合には、最初に砂糖を全量入れずに分けて投入したほうが徐々に砂糖が浸透するために浸透圧の差が大きくなり過ぎず、形が崩れにくくなります。
 また、調理しながらジャムの甘さを調整するためには、同じように砂糖を分けて投入したほうがよいでしょう。

<レモン果汁>

 

レモン果汁は火を止める前に入れる
 レモン果汁を入れるのは、クエン酸を利用してジャムをゲル化させるためです。(「ジャムの科学」参照)
 クエン酸は熱に分解されにくいため、レモン果汁をジャムに投入する時期はいつでもかまわないように思われます。
 ただ、次のペクチンの項で説明するように、酸性下で加熱するとペクチンは加水分解され、ジャムのゲル化を低下させます。
 加熱によってジャムの材料の植物繊維が分解し、ペクチンが溶け出します。酸性の水溶液はペクチンの溶出を促進しますが、同時にペクチンを分解するために、長時間の加熱はジャムのゲル化を低下させることになります。
 水素イオン指数(pH)とペクチンの分解の関係は、カルシウムやマグネシウムなども関係して複雑ですが、一般には酸性が強いほどペクチンは熱によって分解されやすくなります。
 ペクチンがゲル化する条件はpH2.7~3.5で、酸性を強めるためにレモン果汁を添加しますが、ジャムの材料の繊維質から溶け出したペクチンの加水分解を抑えるためには、できるだけ加熱後期にレモン果汁を添加した方がゲル化には有効です。
 このため、レモン果汁はなるべく遅い時期、加熱終了前に投入します。

<ペクチン>


ペクチン添加は加熱終了直前に
 ペクチンは酸性下で加熱すると熱で加水分解するために、ジャムへの投入時期はなるべく遅くします。北海道立食品加工研究センターが1998年に行った実験では、ペクチンの投入は加熱終了直前がもっともジャムの粘着性が高くなるという結果を得ています。
 この実験では、ジャムの溶液を沸騰させ、①その直後、②15分後、③30分後の加熱終了直前、にLMペクチンを添加して、それぞれ粘着性を調べています。その結果は、①と②はほぼ同じ、③の30分後の加熱終了直前、がもっとも高い粘着性を示しました。
 この実験結果は、加熱時間が長いとペクチンが加水分解されるという理論を裏付け、ペクチンはできるだけ加熱後期に添加した方がゲル化に有効だということを結論を得ています。

<アルコール類>


風味をつけるアルコール類
 ジャムの香りつけに使うリキュールは、風味が残るよう、基本的にはレモン果汁やペクチンと同様に加熱の最終段階に入れます。
 ただ、ワインやウイスキーなどで風味のほかに旨味やコク、まろやかさを出す場合には、一定量のお酒を入れることになります。加熱してアルコールを蒸発させるのにのに時間がかかりますので、多少早めにお酒を投入します。
 栄養女子大学が1982年に行った実験では、加熱2分後にアルコール度は1/2に、10分後には1度以下までアルコールが蒸発しました。
 アルコール蒸発後に残るのはお酒に含まれる香りと旨味成分です。



基本は弱火

 一般に煮物は弱火でじっくりと煮るのが良いとされます。ジャムも煮物ですので弱火で煮るのが基本です。
 弱火で煮るのは、熱を材料の中心まで伝えて全体を均一に煮るためで、煮崩れを防ぐことにもなります。
 もっともジャムの場合は、プレザーブスタイル(「ジャムとは?」参照)にするのでなければ、むしろ細胞壁に含まれるペクチンを早く溶出させ、煮崩れさせたほうが調理時間が短くて済みます。

 材料に加熱してジャムにする過程を段階を追っていくと、次のようにまとめられます。


①の段階

②の段階

③の段階

④の段階
①加熱されて植物内の細胞液が膨張し、材料全体が膨らむ。
②材料に熱が通り、細胞膜が壊れてペクチンが溶け出し、材料全体が萎む。
③砂糖が材料内に浸透し、②の段階が進んで半透明化する。
④ペクチン、砂糖、酸によるゲル化が進んで、液体の粘性が高まる。

 材料の繊維質が強くてなかなか煮崩れない場合や、果汁が多い場合には、①の段階で中火ないしは強火で加熱したほうがよいかもしれません。但し、果実を煮崩れさせたくない場合は、弱火でじっくりと煮ます。
 プレザーブスタイルの場合、②の段階が終わって果汁が多すぎる場合には、一旦火を止めて十数分間、粗熱をとります。次に強火にかけると、沸騰するまでの間に水分が蒸発し、煮崩れを防ぎながら煮詰めることができます。但し、この場合も沸騰したら弱火にして煮崩れを防ぎます。

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