海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

TVドラマレビュー(日本)──1971年~


制作:北海道放送
形式:TVドラマ(単発)
放送:1975年2月2日
演出:長沼修 脚本:倉本聰

シンバルをめぐる哀愁に満ちた夫婦のドラマ
 東芝日曜劇場の単発ドラマとして1975年2月2日に放送された。
 東京の名門オーケストラの団員だった男(フランキー堺)が夢破れて、ヴァイオリニストだった妻(南田洋子)と北海道の僻村に移住して10年。夫はせいぜいが太鼓のばちを握るくらいの悶々とした日々を送り、妻は音楽教師として電子オルガンの購入を希望するも町長を始めとした有力者の理解を得られない。
 札幌にオーケストラが来ることを知った妻は夫には内緒で、ドヴォルザークの「新世界より」のシンバルに客演させることを旧知に頼む。そうとは知らず、依頼を受けた夫は練習に参加し、地方紙にも取り上げられ、男は一躍町の名士となる。
 ところが団員同士の会話から男は妻のはかりごとを知ってしまう・・・
 第一楽章の開始から物語は始まり、主人公の回想としてそうした経緯が演奏と並行して語られていくというドラマ形式で、客席には妻と町の関係者が座っている。
 このドラマのストーリー上の肝は、「新世界より」ではシンバルが打ち鳴らされるのは第4楽章の始めの数秒だけで、それくらいだったら10年のブランクがあっても演奏できるだろうと妻が考えるという設定になっている。しかし、実際には1回しかないためにタイミングを逃して打ち損じることも多いという。また、普通は第3楽章のトライアングルとの掛け持ちとなる。
 そうした実際との違いは目を瞑るとして、本作でも緊張のあまりに打ち損じてしまい、内助の功もあだとなる。
 打ち萎れた夫が町の一行とバスに同乗して帰るシーンで終わり、結末は結果オーライだが、夫の落胆が心の傷として残りそうな、哀愁に満ちた夫婦のドラマとなっている。
 小品ながら佳作で、『私は貝になりたい』を彷彿させるフランキー堺の演技が光る。
『交渉人 真下正義』(2005)でも、「ボレロ」のラストで鳴るシンバルがストーリー上の重要な要素となっているのが、本作を思い出させる。 (評価:3)

制作:K&S
形式:TVアニメ
放送:1979年2月5日
演出:椛島義夫 脚本:若杉光夫 作画監督:楠部大吉郎 美術:川本征平 音楽:木下忠司

民話調の情感溢れる作画と雨や波の表現が魅力
 テレビ朝日の『日本名作童話シリーズ 赤い鳥のこころ』(1979年2月5日~7月30日)で放映された第1話、24分。児童雑誌『赤い鳥』に掲載された吉田絃二郎の『天までとゞけ』が原作。
 母を病気で亡くした少年・弥一は猟師の父と暮らしていたが、嵐の夜に漁船が遭難。父が戻れるようにと家の壁を剥がし、毎晩薪を燃やして灯とする。大人は諦めるようにと弥一を諭すが、弥一は聞き入れない。やがて薪が尽きて家がなくなると、同情した友達が難破船を材料に薪を運ぶ。
 そうして子供たちは焚火を囲むが、その様子をいつも通りかかる外航船が見つけ、清い灯だと言って近寄ってくる。その船には記憶喪失で救助された男が乗っていて、焚火を見て弥一のことを思い出す。
 一心に祈り続けた弥一の心が、焚火の灯を聖なる火に変え、天の神に願いが届いたという美しい物語だが、民話調のキャラクターデザインとともに素朴な童画が、心に染み込むようなアニメーションとなっている。
 音楽と製作を担当した木下忠司の兄・木下恵介が監修していて、ヒューマンで情感溢れるカット割りなどが魅力。とりわけ、雨や波の作画表現が素晴らしい。 (評価:2.5)

制作:テレパック、フジテレビ
形式:TVドラマ(単発)
放送:1983年9月23日
演出:大林宣彦 脚本:早坂曉

反戦ドラマとしては底が浅く演出も荒い
 原爆投下直後、姉を訪ねて広島を訪れた日系アメリカ軍兵士(沢田研二)の物語。
 爆心地に住んでいた姉(小川真由美)は行方不明。被爆した娘(大竹しのぶ)に東京の病院に行くように旅費を渡し、自らも東京に行くと、重症の弟の治療費を捻出するためにパンパンをしている娘と再会する。弟が死んで二人は結婚するが、朝鮮戦争が始まり、反戦を訴える娘とともに脱走。
 日系兵士の姉にはアメリカでダンサーとして知り合ったアメリカ人男性(トロイ・ドナヒュー)がいて、将校として志願。婚約者を探しに来た広島で二次被曝。ビキニ環礁の核実験場でも被曝しているという設定。
 脱走兵の逮捕に広島に向かい、死んだものと思っていた婚約者が生存していたことを教えられ、逃亡を手助けするというのがストーリーの概要。
 一言でいえば反核・反戦ドラマで、ストーリーもほぼそれに尽きている。反戦ドラマとするために、キャラクター設定などいささか都合の良いシナリオで、全体に感傷に走り過ぎている嫌いがあり、大竹しのぶの泣き顔が延々と続くのに食傷する。
 明るさを演出するために新橋の闇市でジャズ・クラブを起こすというエピソードを採り入れているが、何もフルで歌わせなくても、と思うくらいに歌のシーンが長いのは、沢田研二主演のご愛敬か。
 全体にテレビサイズにできているのは仕方がないが、反戦ドラマとしては底が浅く、演出も荒いのが残念なところ。 (評価:2)

制作:松竹芸能、フジテレビ
形式:TVドラマ(単発)
放送:1985年7月19日
監督:神代辰巳 脚本:岸田理生

姑・市原悦子の女の情念丸出しの嫁いびりが鬱陶しいほどいい
 連城三紀彦の同名短編小説が原作。
 姑が嫁をいびるという物語で、姑を女の暑苦しい情念を丸出しにしたら右に出る者のいない市原悦子が演じるので、それだけでも見る甲斐があるのだが、『青春の殺人者』(1976)のねっとりとべとついた母親の演技が苦手な人には苦痛の1時間半となるかもしれない。
 嫁いびりだけでなく、一人息子への境を超えた異常な愛情は『青春の殺人者』同様で、二重にべとつく市原が楽しめる。
 苛められる嫁を演じるのが泣き黒子の永島瑛子で、これまた薄幸な女がはまり役という絶妙なキャスティング。息子を演じる田中健がマザコンタイプに見えないのがやや惜しい。
 物語は永島瑛子を気に入った市原悦子が息子との仲を取り持ち結婚に持ち込むが、一転人が変わったように嫁いびりに走るというもので、この嫁取りに何か大きな秘密が隠されているらしいというのは最初に提示される。あとは、その秘密とは? というミステリー仕立てで嫁いびりが延々と描かれるが、市原と永島の絶妙な演技で引っ張っていく神代辰巳の力技が見応えある。
 市原は癌で嫁幾許もなく、実は永島がかつて自分が産み捨てて里子に出した子で、嫁いでからは子供ができず、夫の愛人の子を出生の秘密を隠して育ててきたというもの。
 永島の存在を知った市原は、せめて一年間だけでも母と子の生活をしたいと秘密を隠して嫁に取る。嫁への厳しさも血の繋がらない息子に対して、死んで遺書により秘密が明らかになったと後、実子を甘やかせたと思われたくないためという理由だが、苛めが理不尽すぎて納得できないのが辛いところか。
 血の繋がらない息子に対しては、夫への復讐心からか母のというよりは女の愛情を注いだというラストになっている。 (評価:2.5)

制作:松竹、テレビ朝日
形式:TVドラマ(単発)
放送:1996年2月3日
監督:田中登 脚本:岩佐憲一 撮影:中橋嘉久 美術:鈴木章司

ロマンポルノからブレない女に愛を尽くす男の純情を描く
 テレビ朝日の土曜ワイド劇場で放送されたサスペンス・ドラマ。五十嵐均の同名小説が原作。ドラマの副題は「私のベッドに見知らぬ男が… 湘南夫人がおちた夫殺しの罠」。
 資産家の弁護士の妻(片平なぎさ)が夫(南条弘二)の変死を機に事件に巻き込まれていくというサスペンス劇で、被疑者と疑われた上に夫の関係者が自宅で同じように変死。ピンチに陥った片平を救おうと、彼女に思いを寄せる夫の友人の弁護士(伊原剛志)が事件を隠蔽するが、実は片平と遺産を手に入れようとする伊原の狂言だったという結末。
 それだけならただの三文小説で、実際あまりに不自然な展開に犯人は伊原とかなり早い段階でわかってしまうのだが、夫の変死の真相は妻の片平の殺害で、別の殺人事件で逮捕された伊原が、その動機を遺産目当てではなく片平を愛していたからだと刑事(山本學)に話し、片平の夫殺しを明かさないことで片平だけにわかる愛の証明をするというラストが、日活ロマンポルノの名手・田中登らしい情感ある作品となっている。
 ミステリーとしては伏線がすべてネタバレに繋がってしまうが、夫の葬儀での片平と伊原の出会いに始まり、片平を振り向かせるための伊原の努力が、ラストの愛の証明に繋がるように丁寧に演出していて、好きな女のために愛を尽くす男の純情を描いて、ロマンポルノからブレない。 (評価:2.5)

制作:フジテレビ
形式:TVシリーズ
放送:2010年6月28日 - 2010年7月1日(4回)
演出:松川嵩史 脚本:君塚良一 撮影:川越一成 美術:梅田正則

スリーアミーゴスのトリオ漫才
 映画『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』の宣伝用ミニドラマ。
 スリーアミーゴスが毎回1話完結の寸劇を演じるという構成で、トリオ漫才風。北村総一朗、斉藤暁、小野武彦がいずれも芸達者なため、寸劇としては十分楽しめる。
 毎回、3人が昔話に花を咲かせ、湾岸署で初めて出会った16年前に署長が思いを馳せるが、どれも真実からは遠い妄想。長髪、皮ジャン姿で、署長をボスと呼ばせ、『太陽にほえろ!』風なのがいい。
 とりわけ斉藤暁が髪ふさふさで、容姿ばかりか性格まで人が変わったようにカッコ良く見せるのが最大の見どころ。
 各話の元ネタがTVシリーズから使われていて、ファンへのサービス精神も十分。 (評価:2.5)

深夜も踊る大捜査線 THE FINAL

制作:フジテレビ
形式:TVシリーズ
放送:2012年9月3日 - 2012年9月6日(4回)
演出:長瀬国博 脚本:十川誠志 撮影:川越一成 美術:宮川卓也

老眼鏡を掛けた松重豊が最大の見どころ
 映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012)の宣伝用ミニドラマ。映画には登場しない爆発物処理班のメンバーのエピソード。
 木島(寺島進)の結婚6周年記念パーティー兼湾岸署・勝鬨署の合コンに時限爆弾付きのクマのぬいぐるみが届けられ、時限装置解除を巡る話となるが、最後は白と黒のどちらのコードを切るかというよくあるパターンで、ストーリーにさほど新鮮味はない。
 爆発物処理班班長・眉田(松重豊)が老眼鏡を掛けないと処理ができないという哀愁が最大の見どころで、木島のべらんめえと踊る婦警たちとの合コンが、『踊る大捜査線』ならではの楽しさを見せてくれるが、如何せん脇役には主役は務まらず、脇役を主役に引き上げるほどのシナリオにもなっていないため、一部ファン受けのサイドストーリーの域を出ていない。
 宣伝用実質30分のミニドラマとしてはこれがせいぜいか。 (評価:2)