海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

外国映画レビュー──1929年

製作国:アメリカ
日本公開:公開日不明
監督:ウォルト・ディズニー、アブ・アイワークス、バート・ジレット、ウィルフレッド・ジャクソン、デイヴィッド・ハンド、ベン・シャープスティーン、グラハム・ハイド、ジャック・カッティング、ルドルフ・アイジング、ディック・リチャード 
キネマ旬報:4位

アニメーションの表現方法の発展を見ることができる
 原題"Silly Symphony"で、たあいない交響曲の意。
 1929-1939年に製作された全75本の短編アニメーション作品集で、1933年に『シリイ・シムフォニー』のタイトルでキネマ旬報ベストテンに入っていることから、この年に何本かが公開されたと思われる。
 1933年までにアメリカで公開されたのは40本で、第1話の『骸骨の踊り』(The Skeleton Dance)やアカデミー短編アニメ賞を受賞した『花と木』(Flowers and Trees)、『三匹の子ぶた』(Three Little Pigs)が含まれている。
 基本は音楽とアニメーションを融合させたもので、ミュージカル風のアニメーション。次第にストーリー性が加味されて『クモとハエ』(The Spider and the Fly)、『みにくいアヒルの子』(The Ugly Duckling)、『ノアの箱船』(Father Noah's Ark)、『ハーメルンの笛吹き』(The Pied Piper)のようなマザーグースや童話、聖書に題材を採ったものが作られるようになる。
 第28話『ワンちゃん放浪記』(Just Dogs)までがモノクロ作品で、第29話『花と木』以降がカラー作品。当初は水平方向へのカメラ移動、それに垂直方向のカメラ移動が加わり、前後のカメラ移動へとアニメーションの表現方法の発展を見ることができる。
 中国風カトゥーンの第18話『桃源の夢』(The China Plate)、街路から店の中へとズームインする第22話『夜の時計店』(The Clock Store)の試みやディズニーキャラクターの原型が登場する作品、第36話『三匹の子ぶた』では「狼なんか怖くない」の歌が登場するのも見どころ、聴きどころ。
 41話以降では技法的にはさらに洗練され、動物のモブシーンが描かれる『うさぎとかめ』(The Tortoise and the Hare)、遠近法と水平移動がミックスした『三匹の親なし子ねこ』(Three Orphan Kittens)、イソップ寓話『田舎のネズミ』(The Country Cousin)、オプチカルなど様々なアニメ技法が使われる『風車小屋のシンフォニー』(The Old Mill)、リメイクの『みにくいあひるの子』(The Ugly Duckling)で多数アカデミー短編アニメ賞を受賞している。 (評価:3)

製作国:ソ連
日本公開:1931年5月14日
監督:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン、グリゴリー・アレクサンドロフ 脚本:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン、グリゴリー・アレクサンドロフ 撮影:エドゥアルド・ティッセ 美術:ワシーリー・ゴヴリーギン、ワシーリー・ラハリス
キネマ旬報:6位

ロシア農民の財産分割方法と官僚主義批判が興味深い
 原題"СТАРОЕ И НОВОЕ"で、古きものと新しきものの意。
 ロシア革命の数年後、ロシアの農村が舞台。1928年の5か年計画の中核、農業の集団化の政府キャンペーンに沿ったサイレント作品で、コルホーズ組織化のための教宣映画。
 冒頭、ロシア農民の財産分割の方法が説明されるが、兄弟2人の場合、建物は屋根から壁に至るまでノコギリでそっくり2等分され、農地も柵で2等分されるのが面白い。
 これでは小規模農家はますます小規模になって貧農への負のスパイラルに陥るということで、党が指導して農業の集団化を推し進めるが、因習や私有観念に捉われる農民たちはなかなか受け容れない。宗教からの切り離しも狙って、旱魃に際してロシア正教の雨乞い=神頼みも効果なしと宗教の欺瞞も描く。
 そこでコルホーズが必要だという教宣になり、協業によって牛馬などの農機具が共有されて収穫アップ、余剰利益から牛を買っての再投資、コルホーズが成功してめでたしめでたしという理想が語られる。
 前半は農業の集団化、後半は農業の機械化がテーマとなり、後半の夢物語が語られるあたりから共産主義のファンタジー色が強くなるが、ソ連の歴史が証明した通りのリアリティなきファンタジーは空虚で退屈。
 もっとも昔、教科書で習ったコルホーズの背景と理念の再教育を受けると、ソ連でも中国でも農民の貧困脱出が叶わなかった理由を考察するための材料にはなるかもしれない。
 注文したトラクターがなかなか納品されず、役所に抗議しに行くエピソードもあって、すでに官僚主義批判があったのも興味深い。
 農地を雲の影が動いて行く様子や動物や人間の顔のモンタージュなど、実際の農民が出演したドキュメンタリタッチの映像がエイゼンシュテインらしい。 (評価:2)

製作国:ドイツ
日本公開:1930年1月
監督:ヨーエ・マイ 脚本:フレッド・マヨ、ハンス・ツェケリー、ロルフ・E・ヴァンロー 撮影:ギュンター・リター
キネマ旬報:(無声映画)1位

煮え切らない結末に、で? とならないのがドイツ人の国民性
 原題"Asphalt"で、邦題の意。
 冒頭、道路のアスファルト舗装工事のシーンが出てきて親切だが、アスファルトが何を意味するかは不明。登場人物の泥棒の美女が表面だけ着飾っていることの象徴、上っ面な近代化への文明批判か? 当時の舗装工事の工法が面白い。
 主人公は父親と同じ警官の青年アルベルト(グスタフ・フレーリッヒ)で、交差点で昔懐かしい交通整理係。勤務交代で宝飾店の前を通りかかると、着飾った美女(ベティ・アマン)が店主と揉めている。
 仕込み傘を使う宝石泥棒で、アルベルトが警察署に連行する途中、自宅に連れ込まれ、色仕掛けで籠絡されてしまうが、この色仕掛けがサイレントらしい演出で見どころ。
 真面目青年のアルベルトが美女に恋してしまい、職務との間で煩悶するが、そこに情夫が現れ、あろうことか殺してしまうという無理無理な展開になるが、美女が何とアルベルトを好きになっていたというのも驚きの展開。
 アルベルトの父親を含め、法と人情のどちらを取るか? というドイツ的な真面目な作品だが、型に嵌った設定で作劇も堅苦しいだけでつまらない。
 父親に連行されるアルベルト。正当防衛だと証言してアルベルトを救う美女。煮え切らない結末に、で? とならないのがドイツ人の国民性か。 (評価:2)

製作国:アメリカ
日本公開:1930年1月
監督:ハリー・ボーモント 製作:ハリー・ラプト 脚本:サラ・Y・メイソン 撮影:ジョー・アーノルド 音楽:ナシオ・ハーブ・ブラウン
アカデミー作品賞

レビューも今ひとつでミュージカルというには物足りない
 原題"The Broadway Melody"で、劇中に歌われる曲名。
 ブロードウェイ・ミュージカルの舞台裏を描いた作品で、「ブロードウェイ・メロディー」を作詞・作曲した座付きの歌手エディ(チャールズ・キング)が、田舎から婚約者ハンク(ベッシー・ラヴ)と妹クィニー(アニタ・ペイジ)をニューヨークに呼び寄せ、ジーグフェルドがモデルのザンフィールド一座に出演させるという物語。
 ドラマ的には成長した妹を見て心移りするエディ。それを知って金持ちプレイボーイ(ケネス・トンプソン)と付き合う姉想いの妹。更にそれを知って妹にエディを譲る姉という三角関係の物語で、結婚する二人に対し、姉ハンクは座のライバルとコンビを結成しダンサーの道に生きるという、結婚を取るか仕事を取るかという女の道を描く作品になっている。
 トーキーによる初のミュージカル作品だが、歌唱場面は少なく、終盤のレビューシーンを除くと踊りのシーンも少なく、今の感覚からはミュージカルというには物足りない。
 ダンサーたちも全員が太目で、お世辞にも上手いとはいえず、ミュージカルを作るには当時のハリウッドの人材不足は否めず、映画史的作品の範疇からは抜け出ていない。
 ハンク役のベッシー・ラヴのキュートな演技とブロードウェイ俳優チャールズ・キングの歌唱が見どころ・聴きどころ。 (評価:2)

製作国:アメリカ
日本公開:1930年9月
監督:エルンスト・ルビッチ 脚本:エルネスト・ヴァイダ、ガイ・ボルトン 撮影:ヴィクター・ミルナー 音楽:ヴィクター・シャーツィンガー
キネマ旬報:(発声映画)2位

男性優位思想になってしまう結末がつまらない
 原題"The Love Parade"。劇中では、好ましいものの行列の意味で使われている。ジュールス・チャンセルとレオン・ザンロフの戯曲"Le Prince Consort"(女王の夫)が原作。
 架空の王国シルヴァニアのプレイボーイ伯爵アルフレッド(モーリス・シュヴァリエ)が素行不良のためパリから呼び戻され、独身の女王ルイーズ(ジャネット・マクドナルド)に謁見したところが女王まで口説いてしまい、結婚。ところが専業主夫はやることがなくて暇。不満が高じて別居を決意すると、ルイーズは王位を夫に譲り大団円という若干歌の少ないオペレッタ風のコメディ。
 ヨーロッパで女王は珍しくないにも関わらず、男が主、女は従の男性優位思想になってしまう結末がつまらない。
 朝から晩まで国事で働きづくめ、夫に命令するばかりで顧みず、夕食を共にすることだけを免罪符にしている女王。することがなくて暇を持て余し、不満を抱えながらひたすら妻の帰りだけを待ちわびる夫。
 一般的な夫と妻の立場を逆転させた設定が面白いのだが、それ以上には物語に生かされず、結局は夫に国王になってもらい、妻は家庭を守るのが女の幸せ、家庭円満の秘訣という結論が、ミュージカルとはいえあまりに情けない。
 戦前でも『風と共に去りぬ』(1939)のように女性の自立をテーマにした作品があり、本作の意識の低さに唖然とする。
 軽歌劇風とはいえ、女を口説くモーリス・シュヴァリエの脂下がった表情が下卑ているのも、単なる低能な女たらしにしか見えず、パリのスノッブな貴婦人はともかく、女王が魅かれるというのが説得力を欠く。 (評価:1.5)

製作国:アメリカ
日本公開:1929年10月
監督:メリアン・C・クーパー、ロタール・メンデス、アーネスト・B・シュードサック 脚本:ハワード・エスタブルック 撮影:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック、ロバート・カール 音楽:ウィリアム・フレデリック・ピータース
キネマ旬報:6位

反吐が出そうな軍国主義的ハッピーエンドは嫌いだ
 原題"The Four Feathers"で、邦題の意。A.E.W.メイソンの同名小説が原作。
 イギリスを舞台にした軍人賛美の物語で、将軍の息子ハリー(リチャード・アーレン)、提督の娘エスネ(フェイ・レイ)、親友のトレンチ(ウィリアム・パウエル)、デュランス(クライヴ・ブルック)、キャッスルトン(セオドア・フォン・エルツ)が中心となる。
 将校となったハリーはエスネと婚約するが、連隊がスーダンに派遣されることになり、自分は勇気がないと自覚しているハリーは、エスネとの平和な家庭を望み除隊しようとする。
 除隊の理由を知った親友3人は、卑怯者のシンボルである白い羽根を渡し、軍人との結婚を望むエスネも白い羽根を送り、婚約を解消する。ハリーの父、フェバーシャム将軍も落胆した死の床でハリーに自決するように促す。
 卑怯者の烙印を押されたハリーは汚名挽回のためにスーダンに赴き、窮地に立つ親友3人の危機を救い、ヒーローとなって白い羽根を返す。
 イギリスでは第一次大戦で、徴兵促進のために女たちを使って軍服を着ていない男に白い羽根を配って辱めるというキャンペーンが展開されていて、本作もそのストーリー上にある。
 ハリーの平和主義は否定され、戦地で英雄となることが勇気と称えられる軍国主義的結末で、ハリーの勇気を知ったエスネがよりを戻すという、白い羽根キャンペーンを絵に描いたようなラスト。
 こういう反吐が出そうなハッピーエンドは嫌いだ。 (評価:1.5)

製作:アメリカ
公開:1929年3月
監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ 脚本:ジュールス・ファースマン 撮影:ハロルド・ロッソン
キネマ旬報:8位

 原題"The Case of Lena Smith"。断片プリントのみ(サイレント)