海月衛 映画帖
~映画の大海原をたゆたう~

日本映画レビュー──1927年

製作:日活太奏
公開:1927年12月27日
監督:伊藤大輔 脚本:伊藤大輔 撮影:唐沢弘光
キネマ旬報:4位

酒造問屋の空の大樽を背景にしたシーンが凝っている
 上州国定村の博徒・国定忠治(忠次)を主人公とする三部構成のサイレント映画で、「甲州殺陣篇」「信州血笑篇」(1927)に続く第3部。
 「信州血笑篇」の続編となっていて、越後に逃げた忠次(大河内伝次郎)は正体を隠し、長岡の酒造問屋・沢田屋(磯川元春)の番頭に収まっている。大福帳を捲って真面目に働いているが、博徒に商家の番頭が務まるのかというのが若干の疑問だが、まめまめしい大河内伝次郎の姿が可笑しくもある。
 沢田屋の娘・お粂(沢蘭子)に惚れられ言い寄られてしまうというのも定番だが、正体を明かせぬがゆえに煩悶するというのも定番。沢田屋の息子(村上英二)の不始末の片を付けるために悪人の音蔵(尾上華丈)に正体を明かし、捕り手に追われることになる。
 沢田屋とお粂に窮地を助けられた忠次は上州に戻り、壁安左衛門に預けた友人の息子・勘太郎(中村英雄)を沼田の分店で見かけるが、声を掛けられずに去る。再び捕り手に掴まるが子分らに助けられ、国定村へ。しかし子分の一人・卯之助(浅見勝太郎)の裏切りにより、捕り手に囲まれ、愛妾・お品(伏見直江)とお縄になって終幕となる。
 「御用篇」のフィルムはほぼ残っていて、『忠次旅日記』の魅力の全貌を知ることができる。定番ながらもストーリーは良く出来ていて、恋と笑いと涙の人情噺と、任侠活劇を組み合わせた娯楽作品となっている。
 長岡での大河内伝次郎の二枚目ぶりと、上州での荒んだ旅姿のギャップが激しいのもコメディで、忠次の最大の敵が中風というのも笑える。音蔵との談判で、背後の襖を貫く槍を躱すシーンは、チャップリンにも引けを取らないギャグ。
 映像的にも凝ったカメラワークが多く、酒造問屋の空の大樽を背景にした忠次とお粂のシーンと国定村でのお品と子分たちの評議のシーンの連続したモンタージュのカットバックも見どころ。 (評価:2.5)

製作:日活大将軍
公開:1927年8月14日
監督:伊藤大輔 脚本:伊藤大輔 撮影:渡会六蔵
キネマ旬報:1位

大河内伝次郎の大衆演劇っぽい演技が表情豊か
 上州国定村の博徒・国定忠治(忠次)を主人公とする三部構成のサイレント映画で、「甲州殺陣篇」(1927)に続く第2部。「甲州殺陣篇」は断片を残して紛失し、「信州血笑篇」は一部のみが復元・保存されている。
 残っているのは忠治が御用提灯に追われて赤城山を去るシーンと、上州大戸村の豪商・壁安左衛門の屋敷に身を寄せようとして果たせず、屋敷を去って友人の遺児・勘太郎を預けることになるまでの一連のシーンのみとなっている。
 「甲州殺陣篇」では、悪人に財産を奪われた可哀想な姉弟を助けるヒーローとして活躍した忠次(大河内伝次郎)は、本作では一変、赤城山を追われ、勘助の息子・勘太郎(中村英雄)を壁安左衛門(中村吉次)に預けて信州に落ち延びるという、落ちぶれていく悲劇の人間ドラマの主人公となる。
 赤城山のシーンでは見得を切るヒーローらしさがあるが、壁家のシーンでは自分に野盗を働くような子分はいないと啖呵を切りながらも、子分たちの不始末を知って面子を失い去って行くという惨めな忠次が描かれる。
 赤城山に立て籠もり、過って勘助を死なせてしまった忠次が、勘太郎を引き取り心を通わすという肝腎のシーンがないのが惜しまれるが、安左衛門を演じる中村吉次が憎々しげでいい。
 大河内伝次郎の大衆演劇っぽい顔の演技が、表情豊かで楽しい見どころ。勘太郎が可愛くない。 (評価:2.5)

製作:日活大将軍
公開:1927年10月14日
監督:伊藤大輔 撮影:唐沢弘光
キネマ旬報:9位

 フィルム現存せず(サイレント)